2019.07.10 Wednesday
世界のWAGYU
No.288
「和牛」は、日本在来の牛に外国種を交配してできた肉専用種で、「黒毛和種」、「褐毛和種」、「日本短角種」、「無角和種」の4品種とその交雑種と、日本では定められています。現在、日本の和牛の主流は、商品価値の高さから黒毛和種(下写真)となっています。
以前、「和牛とWAGYU」で紹介したように、日本政府は和牛を国際競争力のある貴重な農産物としています。そして、「和牛統一マーク」(下図)を作成した輸出促進活動が、幅広く行われています。
海外に行くと、スーパーやレストランといったところで、「WAGYU」という表示を目にする機会が増えました。しかし、その多くは日本の和牛ではありません。正確な調査結果はありませんが、海外でWAGYUとして流通している牛肉の約半分はオーストラリア産と推定されており、日本産が占める割合はわずかです(下表)。
Australian Wagyu Associationは、WAGYUを「和牛血統の交配割合が50%を超えるもの」としており、日本の和牛よりも緩く規定しています。日本の和牛関係者の多くは、豪州産WAGYUは本物の和牛ではないと主張していますが、海外の市場では圧倒的な強さです。
豪州産WAGYUは、日本産和牛にとって強敵ですが、WAGYU生産をしている国はすでにかなりあります。米国、中国、台湾、スペイン、ポルトガル、ブラジル、カナダ、ドイツ、メキシコ、ウルグアイ、南アフリカ、ニュージーランドといった国をあげることができます。生産団体が作られ、ロゴマークを定めている国も少なくありません(下写真)。
「WAGYU WORLD」という海外の雑誌も刊行されており、海外ではWAGYUの本来の意味(和牛)を知らずに食べている人たちも増えています。WAGYUを豪州産牛肉と思っている人までいるそうです。
将来、WAGYU消費が大きく伸びそうな国のひとつに中国があります。最近は、中国のスーパーでWAGYUを見かけることが多くなりました。下の写真は、北京のスーパー店頭のものです(左)。「但馬屋」や「黒毛和牛」という漢字表示があるため、日本産にも見えてしまいますが、実は豪州産です。まずまずの霜降りで(右)、風味も悪くありません。
中国では、「黄牛」とオーストラリアのWAGYUを交配させた「雪龍黒牛」(下写真)の生産が行われています。これには、日本の企業も技術や販売の面で協力しています。
ちょっと意外な国かもしれませんが、スペインやポルトガルでもWAGYUの人気が高まっています。下の写真は、スペインのデパート(El Corte Ingres)の食料品売り場に設けられた「CARNE WAGYU」のコーナー(左)です(carneは肉という意味)。スペイン産のWAGYU肉は霜降りがやや粗いものの、パッケージはなかなか立派です(右)。
知人のスペイン人研究者に尋ねたところ、スペインやポルトガルでは霜降りの入った豚肉(ハム)の人気が高いので、霜降り牛肉にもまったく抵抗がないとのことでした。確かに、イベリコハムの霜降りは和牛肉を連想されるものです(下写真)。
今回、海外のWAGYU事情の一端を紹介しました。日本の和牛は芸術的ですらありますが、海外のWAGYUにもかなりのレベルのものが見られるようになってきています。日本は和牛の本家ではありますが、海外市場で優位に立つのは容易なことではありません。JETRO(日本貿易振興機構)なども和牛の普及に努力していますが、今後はさらに高度な戦略が求められる市場に感じられます。
食品のトピックス | 11:55 | 2019.07.10 Wednesday |