2007.10.10 Wednesday
乳酸菌の抗菌ペプチド・ナイシンが認可へ
No.6
乳酸菌は、食品に幅広く利用されている有用微生物です。とくに、日本人は乳酸菌好きだと言われており、日本では食品だけでなく、乳酸菌を使った薬である「生菌製剤」も人気があります。食品に乳酸菌を利用すると、おいしい発酵食品ができます。牛乳が苦手でも、チーズやヨーグルトといった発酵乳製品は大丈夫という方が多くおられます。また、乳酸菌で発酵することにより、腐敗しやすい食材を長期間貯蔵することができるようになります。牛乳に比べて、チーズやヨーグルトは、はるかに貯蔵性に優れた食品です。このことは、冷蔵などの貯蔵技術が未発達の時代においては、非常に重要なことでした。
では、乳酸菌で発酵させると、なぜ食品の貯蔵性が向上するのでしょうか?もっとも重要なのは、乳酸菌により大量に産生される「乳酸」の働きです。ヨーグルトなどの発酵乳の酸味は、この乳酸という物質によるものです。乳酸は、腐敗細菌や病原細菌の増殖を抑える働きもあるため、乳酸菌で発酵させた食品は、安全に長期間保存することができます。乳酸以外にも、乳酸菌が産生する抗菌物質が、いくつか知られています。そのひとつとして、「バクテリオシン」とよばれるペプチド性の抗菌物質があります。
乳酸菌の産生する代表的なバクテリオシンに「ナイシン」があります。ナイシンはラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)という乳酸菌が産生する34個のアミノ酸からなるペプチドです。特に、バチルス属やクロストリジウム属の細菌芽胞に対して効果的に作用する抗菌物質です。ナイシンは、日本ではまだ食品添加物として認可されていませんが、海外では50カ国以上で加工食品に利用されており、チーズや缶詰に使用する保存料として優れた特性を有しています。
このナイシンが、近く日本でも食品添加物の指定を受けて、食品に利用できる見通しとのニュースが耳に入ってきました。私もひと頃(1990年代)、かなり熱心に乳酸菌のバクテリオシンを研究していましたので、ナイシンに対しても大きな関心をもっていました。当時、「世界50カ国以上で認可されているので、いずれは日本でも認可されるだろう」という話を度々聞きましたが、なかなか実現されませんでした。日本でのナイシン認可は、乳酸菌やバクテリオシンの産業的な利用において大きなインパクトのある出来事かと思います。私にとっても感慨深いものがあります。
現在、すでに大手食品メーカーが、ナイシンの食品への利用を検討しているとのことですので、私たちがナイシンを使用した加工食品を手にするのも、それほど遠い先の話ではないでしょう。食品添加物の認可や使用に対しては、様々な意見があります。しかし、安全性と有効性に優れた食品添加物の使用が私たちの生活の質向上に大きな貢献をしてきたのは、紛れもない事実です。ナイシンが、日本において優れた食品添加物として上手に利用されていくことを願ってやみません。
本稿は2007年10月に執筆したものですので、ナイシンの認可については、その時点における見通しです。なお、食品安全委員会(内閣府機関)の添加物専門調査会が作成したナイシンの添加物評価書案(2007/8作成)PDFファイル(http://www.fsc.go.jp/iken-bosyu/pc_tenkabutu_nisin_190830.pdf)を、食品安全委員会ホームページから入手できます。
〜追記〜
2009/04/03
2009年3月2日に、ナイシンは食品に使用する保存料として添加物指定されました。今後、ナイシンを利用した食品が日本でも数多く登場することでしょう。添加物指定についての詳細は、厚生労働省医薬食品局食品安全部長から出された「食品衛生法施行規則の一部を改正する省令及び食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件について」をご覧ください。また、厚生労働省医薬食品局食品安全部基準審査課により、「『食品衛生法施行規則(昭和23年厚生省令第23号)』及び『食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)』の一部改正に寄せられた御意見等について(ナイシン)」がまとめられています。
ペプチドのトピックス | 10:35 | 2007.10.10 Wednesday |