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トピックス

北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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ペットフードの安全性確保を巡る情勢

No.7


1. ペットフードに対する関心の高まり
 昨今、「食の安全」に関係するニュースが、次々と私たちの耳に入ってきています。BSE、遺伝子組換え食品、食品添加物、病原性大腸菌、鳥インフルエンザ、環境ホルモン、中国産輸入食品、原料・賞味期限偽装等々、毎日の食生活に密接な関わりをもっていることだけに、誰もが気になる大切な問題です。

 さらに最近では、私たち人間の食だけではなく、家族の一員となっている犬や猫の健康に大きな影響を及ぼす「ペットの食」、すなわちペットフードの安全性に対する関心も高まってきています。ペットフードのことを扱った新聞や雑誌の記事も、近頃よく目にします。スーパーや量販店のペットフード売り場には、驚くほど多くの種類のドッグフードやキャットフード(最近では、ペット用サプリメントも多い!)が並んでいます。「プレミアムフード」あるいは「機能性フード」と呼ばれる吟味した原料を使用したり、保健的な機能性(健康維持や疾病予防)を重視したりしているペットフードも目立ちます。しかし、「安全性確保」という観点からは、残念ながら人間の食品に比べると、まだ日本のペットフードは、十分な法的整備が行われていない状況に置かれています。


2. ペットフードの安全性確保に関係する法律
 以前、このトピックス欄(「機能性ペットフードの可能性」, 2007/9/7)で触れたことがありましたが、私たち人間の食べる食品の安全性を守るために「食品衛生法」が制定されています。また、乳・肉・卵といった家畜・家禽の生産物の安全性を確保するためにも、「飼料安全法」があります。しかし、飼料安全法は、牛・豚・鶏といった家畜・家禽の餌だけを規制対象としており、犬や猫に与えるペットフードは対象外です。メラミンを含んだ中国産原料を使用したペットフードの問題(後述)なども起こり、ペットフードの安全性に対する関心は非常に高くなっています。しかし、現時点(2007年10月)では、ペットフードを直接規制する法律は、日本には存在しません。

 「薬事法」は、動物に用いる医薬品も規制対象としていますので、医薬品のような効果効能を表示しているペットフードは、薬事法に抵触することになります。量販店の売場でペットフードやペット用サプリメントのパッケージを手にとって見ると、薬事法に抵触するのではないかと心配になってしまう表現をしている製品を見かけることがあります。通常のペットフードは、薬事法が規制する効果効能表示とは関係がありませんので、この法律は基本的にペットフードの安全性確保には関わっていません。

 一方、「動物愛護法」では、動物を適正に飼育し、動物の健康保持をすることを飼主に求めていますが、ペットフードの安全性にまでは言及していません。現在、国内で飼われている犬と猫は合わせて約2,500万匹程度で、ペットフードの市場規模も、ドッグフードとキャットフードを中心に3,000億円近くになっていると言われています。このような状況にもかかわらず、欧米のようなペットフードの安全性を直接確保するための法律がないのは、日本における愛玩動物の歴史的な位置付けなどの要因も絡むのでしょうが、このままの状態でよいとは思えません。


3. 業界の「自主規制」によるペットフードの安全性確保
 日本ではペットフードの品質や安全性の確保は、基本的に「ペットフード工業会」という業界団体による「自主規制」に委ねられており、モラル頼みという側面があることは否めません。なお、ペットフード工業会(http://www.jppfma.org/)は、国内でペットフードを製造または販売する企業64社で構成され、ペットフード市場の90%以上が会員企業によってカバーされています(2007年8月現在)。

 また、民間団体である「ペットフード公正取引協議会」が、「不当景品類及び不当表示防止法」に基づいた「ペットフードの表示に関する公正競争規約」を定め、適正表示を推進していますが、これもペットフードの安全性を確保するためには十分なものではありません。現在、ペットフードに使用される原材料は、使用量の多い順に全体の80%以上を表示すればよいため、完全な内容がわからないことに対して消費者の不満もあります。ただ、こういった状況に対して、ペットフード公正取引協議会は、2008年末までにペットフード製造に使用した添加物すべてを表示することを決定しました。
http://www.jppfma.org/koseitorihiki/koseitorihiki.html
この方向性は、ペットフードユーザーにとっては歓迎すべきものでしょう。なお、「公正取引協議会」は、業界の自主規制のための機関であり、公的機関である「公正取引委員会」(内閣府の外局)とは全く異なる組織です。


4. 「AAFCO」と米国のペットフード事情
 ペットフードの品質の話で、よく「AAFCOの栄養基準」というものが登場します。AAFCO(Association of American Feed Control Officials)とは、「米国飼料検査官協会」(http://www.aafco.org/)のことで、米国各州の飼料検査官等を構成員とする公的な性質の強い機関です。AAFCOは、米国で製造販売されるペットフードの監督機関である「米国食品医薬品局」(FDA)の助言機関として、ペットフードの栄養基準、原材料、ラベル表示などに関するガイドラインを作っています。日本のペットフード公正取引協議会の規約でも、「総合栄養食」の栄養基準として、AAFCOの栄養基準を採用しています。ただし、総合栄養食表示の中で、「AAFCO」という言葉を使用することは認められていません。しかし、総合栄養食表示とは別途に、「AAFCOの成猫用給与基準をクリア」といった表示をしている外資メーカーの製品はよく見かけます。

 米国では、連邦政府と州政府の両段階でペットフードの法的規制が存在します。これにより、人間の食品と同レベルでペットフード原料や製造施設の安全性が確保されています。AAFCOは、米国におけるペットフードの規制や検査に一貫性を持たせるためにも重要な存在となっています。このような米国のシステムを、日本にそのまま導入するのは無理だとしても、ペットフードの安全性確保のために参考にすべき点は多々ありそうです。


5. 中国産原料によるペットフード事件が契機
 最近になって、日本でもようやく政府がペットフードの安全性確保に向けた作業に着手しました(2007年8月)。そのきっかけとなったのは、今年(2007年)3月にメラミンを含む中国産原料(小麦グルテン)を使用したペットフードによる米国での犬や猫の死亡事件(腎臓障害)の発生でした。この事件は、中国企業が、原料にタンパク質が多く入っているように見せかけるためにメラミンを添加したために起きたもので、そのモラルの欠如に対して世界中から厳しい非難が中国に向けられました。また、問題となったペットフードを製造したカナダの大手ペットフード製造会社(メニュー・フーズ社)は、6,000万個にも及ぶ大量の製品を回収(リコール)することになりました。メニュー・フーズ社は、米国やカナダの小売ペットフード会社大手20社のうち17社に対して、各ブランドの製品を委託製造している会社(OEMメーカー)です。このために、影響が多数の北米ペットフードブランド製品に波及しました。

 日本国内でも、この中国産原料を使った米国メーカーブランドの輸入ペットフードが見つかりましたが、政府はこのような製品の市場からの回収を法的には命じることはできませんでした(農林水産省が回収徹底の呼びかけを実施)。幸いにして、取り扱い業者が迅速に当該製品を回収したため、大事には至りませんでした。この事件により、日本ではペットフードを直接規制する法律がなく、輸入製品を含めてこの種の悪質なペットフードが出回るのを防ぐための効果的手段がないことが、あらわになりました。なお、日本で流通しているペットフードの55%が輸入製品で、主な輸入国は、米国、オーストラリア、タイ、中国です。


6. 「ペットフードの安全確保に関する研究会」の設置
 農林水産省と環境省は共同で、今年(2007年)8月に有識者(研究者、業界関係者、獣医師、弁護士、飼主代表ら)からなる「ペットフードの安全確保に関する研究会」を設けました。この研究会において、ペットフードの安全性確保のための制度的対応等を検討することになりました。第1回研究会(2007/8/20)では、業界自主規制の限界や輸入品に対する規制の必要性等の意見が出され、「ペットフードには法的規制が必要である」ということで、メンバーの合意が得られました。その後、第2回(2007/9/19)と第3回(2007/10/11)の研究会が開催され、さらに議論が深まりつつあるようです。

 今後、第4回の研究会における協議を経て、今年(2007年)の11月下旬に開催が予定されている第5回の研究会で「中間とりまとめ」が公表される予定です。どのような内容のものになるのかが注目されます。なお、政府は、来年(2008年)の通常国会に関連法案を提出する方針とのことです。ペットフードの安全性確保のために新法を作るのはたいへんですので、既存の法律である飼料安全法あるいは動物愛護法に必要条項を盛り込むことになるのかもしれません。


本稿は2007年10月に執筆したものですので、「ペットフードの安全確保に関する研究会」による「中間とりまとめ」が公表される前の段階での状況を解説しています。なお、「ペットフードの安全確保に関する研究会」における配布資料と議事概要は、農林水産省のホームページ(http://www.maff.go.jp/www/counsil/counsil_cont/syohi_anzen/pet_food/)から、PDFファイルとして入手することができます。

ペットフード全般に関する信頼性の高い情報(製造、添加物、表示等)として、ペットフード工業会のホームページ(http://www.jppfma.org/)に掲載されている「ペットフード概論」が役立ちます。また、ペットフード工業会のホームページからは、「ペットフードの表示に関する公正競争規約・施工規則」などの各種資料も入手できます。

ペットフードに関する書籍として、下記のものが新しく有用です。かなり高価なのが難点ですが、内容は充実しています。図書館などで購入してもらうのがよいかもしれません。
「ペットフード・ペットビジネスの動向」 本好茂一・大木富雄 編. シーエムシー出版. 2007年8月出版. ¥68,500.

ペットフードに興味がある方は、「ペット栄養管理士」という資格に対しても関心をもたれるかもしれません。詳しくは、「ペット栄養管理士認定委員会」のホームページ(http://www.jppfma.org/nintei/)をご覧になってください。


〜追記〜

2009/06/10


 2008年6月18日に「愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律」(ペットフード安全法)が制定され、2009年6月1日から施行されています。この法律についての情報は、環境省自然環境局のホームページ「動物の愛護と適切な管理 〜人と動物の共生をめざして〜」をご覧ください。

 また、ペットフード安全法の施行に先立ち、農林水産・環境両省は2009年4月18日に「愛がん動物用飼料の成分規格等に関する省令」(PDF:80KB)を公布しました。この省令により、ドッグフードやキャットフードは、パッケージに「原材料名」、「賞味期限」、「製造業者、輸入業者または販売業者の名称と住所」、「原産国名」を表示することが義務付けられました。ただし、1年6カ月の経過措置がとられていますので、実際の義務化は2010年12月からです。

 なお、記事中にある「ペットフード工業会」は、2009年4月1日に「一般社団法人ペットフード協会」へ移行しました。

この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。
154:ペットフードの書籍を監修(2013/12/10)
153:ネコにタウリン(2013/11/25)
152:ペットフードの歴史(2013/11/11)
136:「a-iペプチド」とキャットフード(2013/03/12)
104:TPPと食の安全・安心(2011/11/11)
70:気になるペットビジネス(2010/06/11)
68:「猫にマタタビ」の科学(2010/05/10)
24:ペットフードと特許(2008/07/09)
21:産学官連携でペットフード開発(2008/05/26)
10:ペプチドは魅力的なペットフード素材(2007/12/10)
4:「機能性ペットフード」の可能性(2007/09/07)
ペットフードのトピックス | 13:03 | 2007.10.26 Friday |