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トピックス

北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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食情報の洪水の中で

No.8


 「ココアブーム」は、まだ皆さんの記憶に新しいものと思います。大橋巨泉さんは、最近の著書『どうせ生きるなら』(角川0neテーマ21)の中で、このテレビ番組発信のブームに乗ってしまい、毎日4杯のココアを飲み続けた話を披露しています。彼はココアの効果を信じたばかりに、中性脂肪が非常に危険なレベルまで上がってしまい、大いに後悔したとのことです。「体に良い食品」と言われているものには、通常、「体に良い成分」が入っています。確かにココアの場合も、食物繊維やポリフェノールなど、体に良いと考えられるものが含まれています。しかし、「体に良い成分」が入っている食品が、必ずしも「体に良い食品」であるわけではありません。食品は、特定の成分の作用だけを期待して摂取することはできません。巨泉さんの話は、このことを端的に示している事例です。


 テレビ番組は、食品と健康の関係を、非常にクリアな形で取り上げます。ある食品が、体に「良い」のか「悪い」のか、どちらかのグループに入るのか白黒はっきりさせてしまわないと、魅力的な番組はできないのでしょう。「この食品は、体に良い部分もありますが、場合によっては体に悪いことも心配されます。」といった歯切れの悪い取り上げ方では、インパクトがないのは理解できますが、情報の受け手である私たちは注意しなければなりません。

 「牛乳有害論」というのが、何年かごとにマスコミに登場します。最近も、『病気にならない生き方』(新谷弘実, サンマーク出版)という書籍で、牛乳の「有害性」が強調され、テレビや新聞などでも取り上げられました。これに対して、もちろん農林水産省や業界は猛然と反論しました。双方が明確に、「有害」と「有益」を唱えるものですから、話としては面白くなってしまいます。しかし、実際のところは、「牛乳は良質なタンパク質を多く含み、カルシウムも吸収しやすい形で存在するが、完璧な食品と言えるほど有難いものでもない」というのが、私の個人的な見解です。ただ、こういった一見曖昧なコメントは、マスコミ受けはしないでしょう。


 あらゆる食品には、何らかの良い成分が含まれているといって間違いありません。たとえば、醤油、味噌、ビール、日本酒等々、たいていの食品を微量成分まで調べてみると、抗ガン物質のようなものが見つかってきます。しかし、だからといって、ガン予防のために、醤油を毎日飲み続けることなどできるわけもありません。これほど極端な話は滅多にありませんが、テレビ番組で取り上げられるとスーパーの棚から当該商品が消え去ってしまうほどのブームが起きてしまうのは、どうも感心できません。今まで1年に1回食べるか食べないかといった食品を、テレビ、新聞、雑誌などの影響を受けて、急に毎日の食生活に取り入れてしまうのは危険過ぎます。

 「フードファディズム」(Food Faddism)という言葉を、耳にしたことがあるかもしれません。フードファディズムは、「食物や栄養が健康や病気に与える影響を過大に信じたり評価すること」と定義されています(『「食べものの情報」ウソ・ホント』, 高橋久仁子, 講談社ブルーバックス)。当然、これにはマスコミの存在が大きく影響しており、ある食品に対して妄信的な気持ちをもたせたり、爆発的なブームをもたらしたりしています。フードファディズムについては、別の機会にあらためて取り上げたいと思っています。


 すべての食品には、体に良い成分が含まれている一方で、体に悪い成分も含まれている可能性が高いということも、認識していただきたいと思います。言い換えれば、絶対的に「体に良い食品」も「体に悪い食品」も、この世の中にはないということです。たとえば、私は基本的に、お肉を「おいしくて体に良い食品」と考えていますが、あらゆる人ができる限りたくさん摂取すべきとは言っていません。高齢者の2割が低栄養状態であるという現状から、お肉を摂ることにより十分な栄養を確保する必要がある方がおられる一方で、カロリー摂取量が多く肥満気味な方は、脂肪の少ないお肉(たとえば鶏ササミ)を摂取するといった工夫も必要です。また、お肉以外の高タンパク食品(魚類、牛乳、豆類)を、毎日好んで摂取している方ならば、お肉の必要量も少なくなります。しかし、お魚や大豆製品が苦手な方は、お肉を積極的に食べた方がよいでしょう。さらに、各自の体質を考慮することも、とても重要です。脳卒中、ガン、うつ病といった疾病のリスク程度(家族病歴など)を知り、それを食生活に反映させる必要があります。


 ついつい私たちは、「テレビで取り上げていた」とか、「知り合いが毎日食べている」といった曖昧な情報に左右されがちです。しかし、ぜひ、現在の食生活や各自の体質や健康状況などを踏まえたうえで、食情報を上手に食生活の改善に役立てていきたいものです。氾濫する食情報の中には、とても貴重なものもありますので、うまく取捨選択して付き合っていくことが大切です。


本稿は、伊藤ハム株式会社の広報誌「躍進」(2007年11月号)に掲載していただいた原稿に加筆したものです。

この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。
45:想いやり生乳と加熱殺菌乳(2009/05/25)
28:農医連携シンポジウム(2008/09/10)
12:食育の大切さを考える(2008/01/09)
食品のトピックス | 09:51 | 2007.11.09 Friday |