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トピックス

北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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コラーゲンとコラーゲンペプチド

No.9


 「コラーゲン」や「コラーゲンペプチド」(コラーゲンの分解物)の入った食品、サプリメント、化粧品などを実によく目にします。最近では、ペットフードにも利用されています。コラーゲンという名前は、多くの方にとって非常に魅力的に感じられるようで、コラーゲン入り製品は、とてもよく売れています。こういった製品のパッケージや広告を見ると、「みずみずしい肌を保つ」といった美容的な効果や、「関節の痛みを和らげる」といった保健的な作用がイメージされるような表現が目立ちます。ペットフードの場合でも、「毛艶と皮膚の美しさをサポート」とか「関節の健康に配慮」といった記載が見られます。


 コラーゲンは、私たちの体を構成する全タンパク質の約30%を占めていることからも、生体内における存在意義が大きいのは疑いがありません。コラーゲンは、繊維状の構造を持つ非常に丈夫なタンパク質で、皮膚、骨、軟骨、腱、歯などの重要な構成成分です。しかし、生体内における重要性と、食品などとして摂取する意義は別のものです。人間や動物が口から摂取したコラーゲンは、消化管内で分解されてペプチドやアミノ酸になってから吸収されます。したがって、食べたコラーゲンがそのまま体のコラーゲンになることは決してありません。体内におけるコラーゲンの合成ということだけを考えれば、コラーゲンの摂取よりもコラーゲン合成に必要なビタミンCや鉄の摂取の方が重要であるという指摘もあります。


 コラーゲンの摂取により期待される美容的効果や保健的作用は、分解されてできるアミノ酸やペプチドにあると考えるのが妥当でしょう。コラーゲンを構成するアミノ酸は、非常に特徴的なもので(グリシン33%、プロリン+ヒドロキシプロリン22% アラニン11%)、他のタンパク質とは大きく異なります。また、トリプトファンなどの必須アミノ酸の含量が決定的に少ないため、コラーゲンは残念ながら栄養価の低いタンパク質です。そのため、コラーゲンを唯一のタンパク質として動物を育てると、様々な栄養障害が起ってしまいます。また、コラーゲンには特殊なアミノ酸であるヒドロキシプロリンが多く含まれていますが、このアミノ酸がコラーゲンの合成に直接利用されることもありません。しかし、コラーゲンの摂取により、グリシン、プロリン、アラニンといった特定のアミノ酸の生体内における濃度が高くなることが、細胞の活動に影響を与えることも考えられています。さらに、ヒドロキシプロリンが表皮細胞増殖促進活性やコラーゲン合成促進活性を有するという報告もあります。したがって、コラーゲンの摂取による作用には、コラーゲンを構成するアミノ酸がその一端を担っていると言えそうです。


 一方、アミノ酸が数個つながった分子であるペプチドの働きも注目されます。大部分のタンパク質は、基本的にアミノ酸にまで分解されて腸管から吸収されますが、コラーゲンが分解されてできるペプチドは、比較的大きなまま吸収されると言われています。また、最近、コラーゲン(コラーゲンペプチド)をヒトや動物が経口摂取すると、血液中にプロリンとハイドロキシプロリンが結合したペプチド(Pro-Hyp)が検出されることが報告され、Pro-Hypがコラーゲンを摂取した際に示す働きに重要な役割を演じていることも示唆されています。

 食品タンパク質の分解により生成するペプチドは、もとのタンパク質とも構成アミノ酸とも異なる作用を持つことが知られています。これまでに、食品タンパク質の分解物から、血圧降下ペプチドをはじめとする様々な生理活性ペプチドが見出されています(トピックス:「注目される食品成分ペプチド」参照)。Pro-Hypをはじめとするコラーゲンの分解によりできるペプチドの生理活性も、今後解明されていくことでしょう。


 コラーゲンの経口摂取による作用の中には、関節炎の症状を軽減させる効果のように、比較的臨床データがしっかりとしたものもあります。美容効果とも言える毛髪や皮膚への効用も、それなりに研究報告がされていますが、科学的に十分な証明がされたという状況には至っていないようです。ただ、これだけ多くのコラーゲン入り製品があり、多くの方に利用され続けていることを考えると、コラーゲンの効果を実感されている方が多いということなのではないでしょうか。決して一過性のブームのようなものではないように思われます。

 コラーゲンの基礎的な研究で優れた業績をあげている奈良県立医科大学の大茂芳教授は、最近の著書(文末参照)の中で、「栄養学分野では食品としてのコラーゲンの効用についてはすでに明らかになっていると思っていたが、科学的視点からの報告は意外と少なく、まだまだ分からないことが多くあることに気づいた。」と述べています。コラーゲンを専門にしている研究者から見ると、栄養学的な領域は、まだまだ研究が不十分に感じられるようです。


 ところで、コラーゲンが熱を受けて変性したものを「ゼラチン」と呼んでいます。コラーゲンは水に溶けにくいタンパク質ですが、ゼラチンになるとお湯によく溶け、冷えると凝固する性質を持つようになります。魚の煮汁が冷えると「煮凝り(にこごり)」になるのは、煮汁中のゼラチンが固まるためです。お菓子のゼリーを作るのに使われる「ゼライス」も、ゼラチンを原料としています。

 コラーゲンは胃腸の消化酵素で分解されにくいタンパク質ですが、ゼラチンになると消化されやすくなります。食品やサプリメントなどの素材としてよく利用されている「コラーゲンペプチド」は、ゼラチンをさらに酵素などで分解して、低分子化したものです。コラーゲンペプチドは、ゼラチンよりも溶けやすく、消化吸収されやすい素材です。


私たちは、コラーゲン(ゼラチン)を無意識のうちに結構摂取しています。鶏の手羽先や皮、牛のすじ肉、うなぎ、カレイなどがコラーゲンを多く含む代表的な食材ですが、肉や魚には必ずコラーゲンが含まれています。コラーゲンは様々な食品を介して非常に長い間私たち人間に摂取されており、食経験の面から安全性が高い物質と考えられます。コラーゲンを用いた臨床試験でも、副作用と言えるような症状はほとんど認められていません。こういったことからも、コラーゲンを豊富に含む食材や、コラーゲン(ゼラチン、コラーゲンペプチド)を利用した製品(食品、サプリメント、ペットフード等)を摂取する意義が科学的に解明されることが待たれます。さらに、コラーゲンは、畜産物や水産物の副産物(皮、鱗など)にも多く含まれているので、生物資源の有効利用という観点からも期待される素材だと思います。


以下に、コラーゲンに関する書籍とホームページをあげておきます。
1) 大茂芳. 「コラーゲンの話 −健康と美をまもる高分子−」. 中公新書. 2007.
2) 藤本大三郎. 「コラーゲンの秘密に迫る −食品・化粧品からバイオマテリアルまで−」. 裳華房. 1998.
3) 藤本大三郎. 「コラーゲン物語」. 東京化学同人. 1999.
4) 石見佳子. 「コラーゲンの安全性と機能性」. 国立健康・栄養研究所ホームページ. 2004.
5) 新田ゼラチン株式会社ホームページ. 「ゼラチン研究室」
6) 新田ゼラチン株式会社ホームページ. 「ゼラチンミュージアム」.
7) ゼライス株式会社ホームページ. 「ゼラチンライブラリー」.
8) 日本ゼラチン工業組合ホームページ.


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