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トピックス

北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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ペプチドは魅力的なペットフード素材

No.10


 タンパク質を分解すると、アミノ酸と共に、いくつかのアミノ酸がつながったペプチドも生成します(下図)。このようなペプチドには、分解前のタンパク質とも構成アミノ酸とも異なる保健的な働きがあります(トピックス:「注目される食品成分ペプチド」参照)。このため、大豆や牛乳などのタンパク質の分解物(ペプチド)が、様々な機能性食品(特定保健用食品等)に利用されています。これまで私たちも、鶏肉や豚肉などの食肉タンパク質の分解物の保健的な働きを明らかにし、機能性食品素材の開発を目指してきました。


 そういった研究を進める間に、ペプチドは食品に利用する素材だけではなく、ペットフード(ドッグフード、キャットフード)の素材としても優れたものではないかと考えるようになりました。もともと肉食動物である犬や猫は、高タンパク質のフードを必要としていますし、好みます。とくに猫は、今日でも肉食動物の性質を強く残しています。タンパク質の分解により得られるペプチドは、栄養学的にタンパク質と同等のものですので、肉食動物には好適なフード素材です。

 ただ、ペプチド性素材をペットフードに配合する際に気になったこととして、ペットフードの製造過程で比較的高温の加熱処理が行われることがありました。ドライフード(いわゆる「カリカリ」タイプ)の場合、エクスクルーダーで押出し成形するときは110〜135℃程度、その後の乾燥は140℃程度で処理が行われます。ウェットフード(主に缶詰)の場合も、120℃程度の加熱殺菌を経て最終製品となります。


 ペプチドは、わりあいと熱安定性の高い物質ですが、このような加熱処理の影響は少し心配でした。ペプチドの保健的機能(抗ストレス作用など)を期待してペットフードに配合するわけですから、加熱によりその働きが失われてしまっては意味がありません。また、ペプチドが分解されたり他の成分と反応したりすることにより、嗜好性に影響が出ることも考えられました。

 アミノ酸やペプチドのようなアミノ基をもつ物質と、糖質のようなカルボニル基をもつ物質を一緒に加熱すると、メイラード反応(アミノ・カルボニル反応)とよばれる現象が起こります(トピックス:「ペプチドは、おいしい!?」参照)。これは、食品の加工・貯蔵・調理時に生じる、々甬だ分生成、⊃調変化、9鎧晴淑質生成などに関わる非常に重要な反応です。この反応は、加熱により短時間で進行しますが、常温でもゆっくりと進むため、非加熱食品においても重要です。メイラード反応に伴い、多くの香気成分が生成し、食品に独特の良い香りが付与されることが知られています。また、食品では外観も重要な品質決定要因ですが、メイラード反応は食品の色にも関わっています。コーヒー、キャラメル、味噌、醤油といった食品の示す褐色は、メイラード反応で形成された色素物質(メラノイジン)によるものです。


 メイラード反応は、比較的高い温度で製造が行われるペットフード中でも当然起こります。私たちが様々な実験を行った結果、ペプチド性素材をペットフードに配合した場合に起こるメイラード反応は、幸いにして良い面が多いことが判明しました。ペプチドは単独でも良い味を示すものが多く、鶏肉や鰹肉の酵素分解物(ペプチド)をドライフードに振り掛けてあげると、猫は喜んで食べてくれます。キャットフードの原料にこういったペプチド性素材を配合し、加熱工程を経ると、さらに嗜好性が高まることが示されました。メイラード反応によって香気成分が生成し、猫が非常に好む香りを備えたキャットフードとなり、驚くほど食い付きがよくなりました。

 保健的な作用の面でも、メイラード反応の生成物であるメラノイジン等には、抗酸化活性などの好ましい働きがあり、機能性素材として注目されています。実際に、鶏肉や鰹肉の酵素分解物(ペプチド)に糖類を添加して加熱すると、抗酸化活性が著しく上昇しました。高温加熱を経て製造されるキャットフードやドッグフードにおいても、添加したペプチドの働きが低下することはほとんどないことがわかりました。抗酸化活性のように、メイラード反応が起こることにより、作用が強まるものもあります。このようなことから、ペプチドはペットフードに利用する素材として非常に優れた性質を備えたものであると考えるに至っています。


 近年、保健的な付加価値の高いペットフード(いわゆるプレミアムフードや機能性フード)に対するユーザーの関心が高まっています(トピックス:「機能性ペットフードの可能性」参照)。私たち人間とは違って、犬や猫は、おいしいものしか食べてくれません。人間のように、「まずくても体に良いから」ということで、我慢して食べるようなことはないでしょう。ペットフードの場合、「美味しくて体に良い」ということが、人間が食べる食品以上に求められます。私たちは、美味しくて体に良いペプチドの性質を上手に生かしたキャットフードやドッグフードの誕生を目指して、これからも研究を進めていきます。
この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。
186:機能性ペプチドの書籍を監修(2015/04/10)
155:ペットフードと乳酸菌(2013/12/25)
154:ペットフードの書籍を監修(2013/12/10)
153:ネコにタウリン(2013/11/25)
152:ペットフードの歴史(2013/11/11)
136:「a-iペプチド」とキャットフード(2013/03/12)
93:食品と生体におけるメイラード反応(2011/05/25)
68:「猫にマタタビ」の科学(2010/05/10)
51:ペプチドの書籍を監修(2009/08/25)
48:味覚センサーの導入(2009/07/10)
36:コラーゲンとメイラード反応(2009/01/13)
21:産学官連携でペットフード開発(2008/05/26)
5:ペプチドは、おいしい!?(2007/09/14)
1:注目される食品成分「ペプチド」(2007/08/22)
ペットフードのトピックス | 11:33 | 2007.12.10 Monday |