2007.12.25 Tuesday
健康食品・機能性食品・特定保健用食品
No.11
食生活が私たちの健康に密接な関係を持っていることは、誰もが感じていることでしょう。食事の内容を工夫することによって、健康の維持や病気の予防を考えている方も多いと思います。また、ある種の食品に対しては、病気を治すことさえできるのではないかと、過度の期待をされる方もいるようです。しかし、食品は医薬品とは異なり、病気に対する治療効果までを求めるものではありませんし、みるみる健康になってしまう魔法のような食品も存在しないでしょう。テレビ番組で取り上げた「体に良い食品」が、あっという間に大ブームになってしまうようなことは、ちょっと考えものです(トピックス:「食情報の洪水の中で」参照)。
体に良い食品というと、まず「健康食品」という言葉が頭に浮かぶかもしれません。健康食品は、かなり古くから使われている言葉ですが、私は個人的には、この言葉が余り好きではなく、ちょっと怪しげなイメージさえ持っています。実際、いわゆる健康食品が問題となったネガティブなニュースがこれまでに数多くありました。「健康食品を摂り続けて、健康を損ねてしまった」というのは、やりきれない話です。健康食品というのは、「健康をイメージする食品」程度の意味しかなく、現状では、販売業者が健康食品と掲げるかどうかだけの問題です。厚生労働省の「健康食品のホームページ」には、「いわゆる健康食品については、法律上の定義は無く、広く健康の保持増進に資する食品として販売・利用されるもの全般を指していると考えられます。」というちょっと無責任な感じの記述があります。なお、健康食品に関しては、東京都の「健康食品ナビ」も、割合と豊富な情報を提供しています。
日本では、20年ほど前から「機能性食品」という言葉がよく使われるようになってきています。機能性食品は、保健的な働きがあることが科学的に示されている食品を指す用語で、日本の学会発のものです。今日、英訳された“Functional Food”は、世界中で使用されています。さらに日本では、平成3年に「特定保健用食品」制度が発足しました。特定保健用食品(通称:トクホ)は、厚生労働省が表示許可をした法的なお墨付きを得た機能性食品と言ってもよいものです。これまでに752の特定保健用食品が登場しました(平成19年12月4日現在)。色々なカテゴリーのものがありますが、「おなかの調子を整える」、「血圧の高めの方」、「コレステロールが高めの方」といった表示のあるパッケージをご覧になったことがあるかと思います。ヨーグルト、酸乳、クッキングオイル、お茶などで、かなりの人気商品も出てきています。特定保健用食品の最新情報は、財団法人日本健康・栄養食品協会のホームページから得ることができます。なお、特定保健用食品の制度的な話を正確にするには、平成13年に創設された「保健機能食品制度」という少し複雑な制度を説明する必要がありますが、これについては別の機会に譲ることにします。
ところで、私は食品の中でも、食肉や食肉製品に注目して研究を行ってきましたので、食肉を主原料とする機能性食品(機能性食肉製品)の開発状況に関心をもっています。皆さんは、ハム・ソーセージといった食肉製品の中で、機能性食品や特定保健用食品として頭に浮かぶものがあるでしょうか。残念ながら、ヒット商品と言えるような機能性食品は、食肉製品では見当たりません。これまでに、食物繊維(整腸作用)や大豆タンパク質(コレステロール調節作用)を添加したソーセージなどの特定保健用食品がいくつか登場してきました。また、プロバイオティクスと呼ばれる体に良い乳酸菌を利用した食肉製品も開発されています。これらの製品があまりヒットしなかった理由として、メーカーが大々的にPRしなかったこともあるかもしれません。しかし、私はお肉がもっている「おいしさ」という素晴らしい特徴が、機能性食品や特定保健用食品の場合には、かえって災いしているのではないかと思っています。
「おいしいけれど、体に良くない」、あるいは「まずいけれど、体に良い」ということがよく言われます。これらは科学的な根拠のない話ですが、「良薬、口に苦し」という古くからある考えが影響しているのでしょうか。ちょっと脇道にそれますが、この言葉の語源を調べたところ、「孔子家語」に、「良薬苦於口、而利於病」(良薬は口に苦けれども、病に利あり)とあるということでした。似たような言い方は、英語にもあって、“Men take bitter potions for sweet health.”と言ったりするようです。世界中で同じような考え方があるのかもしれません。
いわゆる「体に良い成分」を添加すれば、割合と簡単に機能性食品を開発することができます。しかし、このような添加型の機能性食品を食べるくらいなら、サプリメントとして別々に摂った方が良いのでは、という意見もよく耳にします。単に体によい成分を添加しただけでは、不自然な感じを与える食品となってしまい、食肉製品の場合には、せっかくの魅力であるおいしさのイメージが損なわれかねません。このことは、食肉製品に限った話ではないかもしれません。おいしさは、あらゆる食品における魅力の重要な鍵を握っているでしょう(トピックス:「食品の魅力は、なんと言ってもおいしさ」参照)。
私が今、機能性食肉製品の開発で注目しているのは、「熟成」です。牛肉は熟成によりおいしさが増しますし、ハム・ソーセージといった食肉製品も、熟成がおいしさの鍵を握っています。これまでに私たちの研究室で検討したところ、熟成中に食肉タンパク質が分解されて生成するペプチドには、血圧降下作用や抗酸化作用などの生理活性のあるものが見つかっています。このことから、食肉製品では、熟成を上手に生かすことにより、「おいしくて体に良い」機能性食品が開発できるのではないかと考えています。「熟成」は「添加」に比べると、ずっとおいしそうなイメージがあるのではないかと思っていますが、皆さんはどうお感じになるでしょうか。
本文中にもいくつか引用しましたが、以下に本稿に関連した有用な情報が得られるホームページをあげておきますので、ご参照ください。
1) 厚生労働省 「健康食品のホームページ」
2) 東京都 「健康食品ナビ」
3) 独立行政法人 国立健康・栄養研究所 「健康食品の安全性・有効性情報」
4) 財団法人 日本健康・栄養食品協会
5) 財団法人 日本食肉消費総合センター
6) 社団法人 熊本県畜産協会 「食肉の知識」
食品のトピックス | 12:16 | 2007.12.25 Tuesday |