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北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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大学発ベンチャーの意義

No.13


1. 大学発ベンチャーとは?

 株式会社フード・ペプタイドは、大学発ベンチャーとよばれる会社のひとつです。大学発のベンチャー企業も、最近ではそれほど珍しいものではなくなりました。大学発ベンチャーとはどういった会社かというと、概ね以下の4つの型に分類されるようです。フード・ペプタイド社の場合、,鉢に該当します。
  • 大学・大学教員が所有する特許を基にした起業(特許による技術移転型)
  • 大学での研究成果・習得技術等に基づいた起業(特許以外の技術移転型)
  • 大学教職員・学生等が設立者となった起業(人材移転型)
  • 大学やTLO(技術移転機関)が出資した起業(出資型)


2. 大学発ベンチャーの設立意義

 それでは、大学発ベンチャーを設立する意義は、どのようなものでしょうか。よく言われているのは、「大学発ベンチャーの創出により、大学で得られた研究成果が社会に還元され、経済活性化や雇用機会創出につながる。」といったことがあります。ちょっと気取って、「イノベーションの創出において、大学発ベンチャーはそのままでは死蔵してしまいかねない大学の知を活用して、新たな価値を市場に送り出すことにより、経済社会に付加価値を創出する非常に優れた存在である。」というような説明も見られます。いずれにしろ、「大学における研究を積極的に社会に役立てる。」といったところでしょうか。

 ベンチャーを設立しないと大学での研究成果を有効に活用できないかというと、そんなこともないのですが、私は大学発ベンチャーを設立する意義は十分にあると思っています。大学発ベンチャーと密接な関係をもつものに、「産学連携」や「産学官連携」があります。産・学・官それぞれに得意領域がありますが、連携により可能性が大きく広がります。大学発ベンチャーは、大学と産業界との架け橋的な存在でもあり、官の政策の実現や資金の有効活用にも寄与します。これだけではちょっと抽象的な説明ですので、具体的な事例として私たちの行ってきた「ペットフード素材開発」の話を別の機会に紹介するつもりです。


3. 大学発ベンチャーの数的状況

 平成19年3月の時点で、1,590社の大学発ベンチャーが確認されています(経済産業省「大学ベンチャーに関する基礎調査」)。大学別では、東京大学の101社を筆頭に、大阪大学70社、早稲田大学66社、京都大学62社、筑波大学61社、慶応大学53社、東北大学52社、九州大学46社と続いており、各種大学ランキングの上位常連といった顔ぶれです。ちなみに私の勤務する北里大学は3社だけで、ちょっと寂しい数字です。地域別に見ると、東京378社、大阪111社、神奈川107社、京都96社、福岡95社といった上位5都府県で全体の約半数を占めています。北里大学獣医学部のある青森県は、全国最低で3社のみです。大学発ベンチャーによる地域経済活性化は、東京一極集中からの脱却手段としても注目されていますが、現状では厳しいものがあります。

 平成10年に「大学等技術移転促進法」が制定され、大学の研究成果が積極的に産業界で活用されるような環境整備が進められ、大学発ベンチャーの起業数が増加し始めました。大学発ベンチャー創業支援の一環として、平成12年には「産業技術力強化法」の制定や国立大学教官の会社役員兼業の許可がありました。その翌年の平成13年には「新市場・雇用創出に向けた15の提案」(いわゆる「平沼プラン」)の一部として、「大学発ベンチャー企業を3年間で1,000社に」という具体的目標が経済産業省から提示され、一気に起業数が増加していきました。平沼プランの掲げた1,000社設立は平成16年度末に達成し、現在、大学発ベンチャーは「数」から「質」への転換が求められています。


4. 大学発ベンチャーの質的状況

 大学発ベンチャーの経済効果について、平成18年度末までに設立された1,590社から算出した推計があります(経済産業省「大学ベンチャーに関する基礎調査」)。これによると、1,590社の売上高と雇用者数から算出した「直接効果」は、市場規模で約2,800億円(1.8億円/1社)、雇用者数で約18,000人(11.6人/1社)となっています。また、間接効果を含めた経済波及効果は約5,200億円、雇用誘発効果は約37,000人と見積もっています。これらの数字の大きさを評価するのは私には難しいことですが、「意外に大きな数字」というのが私の率直な印象です。

 日本経済新聞社が平成19年10月にまとめた調査結果によると、大学発ベンチャーの55%は経常損益が赤字で、そのうちの7%の会社は「3年以内に会社を売却する可能性がある。」と回答したとのことです。新聞記事では、人材不足や営業ノウハウの不足から、事業経営の厳しい会社が多いと解説していました。実際に、これらは多くの大学発ベンチャーが抱えている共通した悩みではないでしょうか。ただ、一口に大学発ベンチャーと言っても、株式を上場している堂々たる会社もあれば、社員1名で売り上げゼロの形だけの会社もあり、経営状況は千差万別です。


5. 大学発ベンチャー雑感

 以前、大学発ベンチャーに関する中央官庁主催のシンポジウムを聞きにいったことがあります。国や自治体の方々は、ベンチャー企業を設立することの積極的な意義を唱えていました(立場上当然でしょう)が、民間企業の方々はやや悲観的な見方を示していたのが印象に残っています。ある方は、「零細な大学発ベンチャーが参入して発展できる隙間領域が残されているのか?」と言っていました。確かに、普通に考えれば、発展が期待できる領域は、資金の豊富な大企業が手をつけるでしょうし、仮にベンチャー企業が最初に始めてもすぐに大企業が追い越していくことも考えられます。また、別の方は、大学教員がやる企業経営は、「武士の商法」そのものというようなことも言われていました。私は、大学の比較的自由な研究環境や、卒業生ネットワーク等の人的資産を活用できることなどは、大学発ベンチャーならではの優位点だと考えており、それほど悲観的ではありません。

 フード・ペプタイド社を設立してからまだ半年余りしか経っておらず、私自身は大学発ベンチャー設立の経験者として多くを語るほどの材料を持ち合わせていません。ただ、ベンチャーを設立しなければ見えてこなかったことも多々ありました。中小企業診断士、司法書士、税理士、弁護士といったこれまでほとんど無縁だった方々と話をする機会も多くあり、外から大学を見ることができるようになり、視野も確実に広がった感じがしています。産学連携ひとつをとってみても、これまで研究成果を出したあとの産業化については、今思えば他人任せのようなものでした。考え方を切り替えるのは簡単なことではありませんでしたが、幸いなことにフード・ペプタイド社のペットフード素材に関する事業は順調に進んでおり、収益を研究資金として活用するという好循環も形成されつつあります。まだ、社会貢献という面からはささやかな企業ですが、雇用機会創出や地域経済活性化につながる展開ができればと考えています。


大学発ベンチャーに関して有用な情報が得られるホームページとして、以下の3つをあげておきますので、ご参照ください。
1) 大学発ベンチャー創出・成長促進(経済産業省)
2) 大学発ベンチャー起業支援サイト(デジタルニューディール研究所)
3) 大学発バイオベンチャー協会ホームページ


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