2008.02.26 Tuesday
チザイの人
No.15
今回のタイトルは、『チザイの人 〜大阪工業大学「知的財産学部」誕生の衝撃〜』(三五館)という昨年(2007/9)出版された書籍からとったものです。「チザイ」は、「知財」すなわち「知的財産」のことです。カタカナで「チザイ」と書いてどれだけの方が「知財」のこととわかるかのか少し心配ですが、特許権や著作権といった知的財産に関する話題がかなり頻繁に、テレビや新聞などで取り上げられるようになってきたのは確かです。
『チザイの人』は、元特許庁技監(技術系トップ)で、現在、大阪工業大学知的財産学部の学部長をされている石井正氏が書かれた本です。この本では、「知的財産学部」という日本で最初の学部を設立するまでの奮闘が主題となっていますが、知的財産に関する入門書としても優れています。知的財産や特許に関する書籍はたくさんありますが、なかなか難しい内容のものが多いので、これから「知財」について勉強してみようと思っている方は、このような読みやすい本から入るのも良いかと思います。
私は私立大学に勤務しているため、「知的財産学部」誕生に至るまでの話の部分に大きな関心を持って読みました。非常に優れた人材(教員)を集め、魅力的な教育内容を構築するための努力はたいへんなものだったと思います。また、石井氏が学生募集に際して予備校の方から言われた言葉が紹介されていますが、大学関係者としては身につまされる思いがしました。大学や学部の本質的な中身よりも、大学のいわゆる「ブランド力」が学生募集に大きな影響をもつという内容です。「その解説を聞いて、頭のなかが少し白くなり、声も出なかった。(中略)これから新学部に優秀な学生を迎え入れることは、はたしてできるのだろうか、暗澹たる思いにとらわれた。」と、その当時の胸中が率直に語られています。
さて、知的財産について、ごく簡単に解説することにします。主な知的財産を、下記の表にまとめてみました。このうち、テレビや新聞のニュースで割合と私たちが目にする機会が多いのが、「特許権」と「著作権」ではないでしょうか。特許権関係の話では、「青色発光ダイオード」の問題などでライセンス料の額に驚いた方も多かったことと思います。「著作権」についても、コンピュータやインターネットの普及により、様々な新しい問題が起こってきています。「特許権」は、発明内容を特許庁に出願して審査を経ることにより権利が得られます。これに対して、「著作権」は、著作物(文芸、美術、音楽など)を創作した時点で権利が発生するのは、興味深い点です。この点に関しても、『チザイの人』では、学生とのやりとりの中でわかりやすく解説されています。
もう一つだけ、「商標権」についても触れておくことにします。商標とは、いわゆるブランドのことですが、会社名や製品名などと言った方がわかりやすいかもしれません。株式会社フード・ペプタイドの社名(「フード・ペプタイド」および「Food Peptide Co., Ltd.」)も商標登録を出願しています。また、私どもの北里大学獣医学部は、北海道八雲町に附属牧場をもっていますが、ここでは放牧を主体とした飼育方法により、「北里八雲牛」という良質な肉牛を生産しています。この「北里八雲」も、すでに商標登録がされています。
ところで、中国で「青森」を商標登録しようとした話がありました。5年ほど前に中国のパッケージ会社が、「青森」という商標を登録したいと出願し、これに対して青森県や関係団体が意義申し立てを行っていた問題です。もし、中国で「青森」の商標登録が認められると、リンゴなどの青森県産品を中国に輸出できなくなる恐れもあったため、関係者には深刻な問題でした。それだけに、先日(2008/2/6)の新聞記事を見て、私も青森県民の一人としてホッとしました。青森県側の主張どおり商標登録を認めないという裁定が下されたのです。中国の商標法には、「公衆に知られた外国の地名は商標にできない」との規定がありますが、中国側には「青森」は地名ではなく、「新鮮な」とか「きれいな」というイメージの言葉であるという考え方もあったので、商標として認められてしまう心配もあったようです。
会津大学(福島県会津若松市)で知的財産管理アドバイザーをされている重田暁彦客員教授の著書『「雪見だいふく」はなぜ大ヒットしたのか 〜77の「特許」発想法〜』(講談社)が、今年はじめ(2008/1)に出版されました。誰もが知っているアイスクリーム「雪見だいふく」、入浴剤「バブ」、洗剤「アタック」などのヒット商品を例にあげて、特許や商標などの知的財産についてわかりやすく解説している好著です。この本も「知財」入門書としてお勧めの1冊です。文庫本なので、お値段も手頃なものです。
私は知的財産の専門家ではありませんが、今日、多くの大学教員にとって特許などの知的財産は非常に重要なものになってきています。特に私は大学発ベンチャー企業に関わっていることもあり、知的財産については強い関心を持っています。フード・ペプタイド社は、「知財が命」と言っても過言ではない会社です。このため、法務・知財担当の取締役として弁理士の富沢知成氏に就任していただいています。弁理士は特許権等の知的財産の専門家であり、今日、ほとんどの特許出願手続きは弁理士を介して行われています。弁理士は、まさに「チザイの人」の代表格とも言える方々です。弁理士になるのには、超難関の国家試験をパスしなければなりませんが、やりがいのある仕事ですので、多くの優秀な若い皆さんに目指していただきたいと思います。特に青森県をはじめとする北東北には弁理士が少なく、技術立県を目指すうえで大きなネックとなっていますので、こういった地域で活躍される弁理士は貴重な存在です。なお、弁理士の詳細については、日本弁理士会のホームページをご覧になってください。
その他のトピックス | 10:46 | 2008.02.26 Tuesday |