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トピックス

北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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「シトルリン」ブームは来るか

No.18


 様々な成分を利用した機能性食品が、これまでに多く登場してきました。最近注目されている機能性成分として、「L-シトルリン」があげられます。昨年夏(2007/8/17)に厚生労働省から出された通達により、L-シトルリンの食品への利用が解禁されました。過去にも医薬品成分からの解禁素材として、コエンザイムQ10、L-カルニチン、αリポ酸といったものがあり、これらの成分がちょっとしたブームになったことから、業界では今回のシトルリンにも熱い視線を向けているようです。


 シトルリンは、1930年に日本人によってスイカ果汁中に発見され、スイカの学名であるCitrullus vulgaris(シトルラス・ブルガリス)にちなんで命名されました。アミノ酸の一種ですが、タンパク質を構成する20種類のアミノ酸には入っていません(化学構造は下右図)。スイカなどのウリ科植物に多く含まれ(下表参照)、特にアフリカ南部のカラハリ砂漠に自生しているスイカの原種(カラハリスイカ)には多いことが知られています。乾燥や強光(紫外線)といった過酷な砂漠環境において自生できる秘密のひとつが、シトルリンの存在と言われています。


 シトルリンは活性酸素(ヒドロキシラジカル)消去能(抗酸化能)が強いため、この物質を多くもつスイカは環境ストレスに強い植物となっているようです。このことは、奈良先端科学技術大学院大学のグループによる「野生カラハリスイカプロジェクト」により解明され、「シトルリンを含有する活性酸素消去剤」として特許も取得されています。詳しくは、奈良先端科学技術大学院大学の教授8名を中心に設立された大学発バイオベンチャー企業「株式会社植物ハイテック研究所」のホームページをご覧ください。


 協和発酵工業は、2005年からL-シトルリンを米国市場向けに供給してきましたが、昨年から日本でも食品として利用できるようになったことをうけ、精力的に市場開拓を進めています。PR戦略の一環として、「シトルリン代謝向上研究会」を設立(協賛)しています。「シトルリン代謝向上研究会」のホームページでは、シトルリンがわかりやすく解説されています。生体内でシトルリンは、一酸化窒素の生成を促すことにより血管を拡張させ、血流を改善することがよく知られていますが、主な作用として以下のようなものがあげられています。なお、欧米では疲労軽減作用をもつ医薬品やサプリメントとして、シトルリンはかなり以前から使用されてきました。


 先日の新聞記事(2008/4/3、日本経済新聞など)によると、アサヒ飲料、資生堂薬品、ロッテの3社が、シトルリンを利用した商品を4月22日に同時発売するとのことです。アサヒ飲料はミネラルウォーター、資生堂薬品は栄養ドリンク、ロッテはチューインガムを開発しました。シトルリンは日本では新食品素材で知名度が高くないため、共同啓発プロモーションを展開する「シトルリン健康プロジェクト」を発足するとありました。各商品には共通のロゴマークを表示し、販売促進活動や広告等でも連携するそうです。

 前回のトピックス(No.17「食品と特許」)でも触れましたが、食品では効果・効能を明確に表示することができません。コラーゲンやオリゴ糖といったよく知られている成分であれば、それらを添加するだけで消費者にイメージをもってもらえますが、シトルリンのような新素材の場合は、そうはいきません。メーカーとしては、知恵のひねりどころだったのでしょう。


 「企業連携」によるPRが、新素材の普及に対してどのような効果をもたらすのか、私も大いに注目しています。確かに「新しい」素材は魅力的ですが、その反面、食品に対しては余り新しいものを好まないという消費者の保守的な心理もあります。新しいものに対する「期待」と共に、「不安」もあるのではないでしょうか。「シトルリン健康プロジェクト」のお手並み拝見といったところです。

 また、幸いにしてプロジェクトの成功によりシトルリンブームが来て、これらの製品がヒットした場合、他のメーカーからの類似商品が続々と登場することも予想されます。よくある話ですが、様子見をしていた後発企業が「美味しいとこ取り」ということもあるかもしれません。食品でブームが来れば、シトルリンはペットフードにも利用されていくのではないでしょうか。

この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。
261:ヒスチジンは疲労感軽減アミノ酸(2018/05/25)
197:テアニンは集中アミノ酸(2015/09/25)
66:オルニチンと大人のヨーグルト(2010/04/12)
41:だから売れた!(2009/03/25)
27:機能性食品の可能性と限界(2008/08/25)
11:健康食品・機能性食品・特定保健用食品(2007/12/25)
食品のトピックス | 11:44 | 2008.04.11 Friday |