<< March 2024 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>

トピックス

北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

<< 「シトルリン」ブームは来るか | main | バター不足と食料危機 >>

たまご博物館

No.19


 『たまご博物館』というホームページがあります。1998年に開設され、アクセス数もすでに80万を越えているちょっとした人気サイトです。卵に関して実に充実した情報が提供され、マスコミにもずいぶん取り上げられてきたようです。1,257種類(2008/3/20現在)にも及ぶ全国のブランド卵(特殊卵など)についての解説は、「たまごデータベース」と言ってよいものです。運営されている高木伸一氏という方は、ホームページの「館長プロフィール」を見ると、たくさんの資格をもっておられることに驚かされます。「好きな食べ物」が、「たまご」なのは納得です。


 最初は、てっきり卵あるいは食品関係の仕事をされている方かと思いましたが、上記のプロフィールやホームページと同名の著書『たまご博物館 〜たまごサイエンスエッセイ〜』(芳賀書店、2001年出版)には、「株式会社NTTデータにて銀行システムの開発を担当」とあり、ホームページ開設時点ではお仕事との接点はなく、まったくの趣味だったようです。しかし、昨年出版された『365日たまごかけごはんの本』(読売連合広告社)では、「現在は宮崎県で採卵鶏の孵卵場に勤務」と紹介されていますので、趣味から仕事になったということなのかもしれません。


 なお、書籍の『たまご博物館』は、すでに絶版となっており、現在は入手が難しいようです。アマゾンなどで調べると、古本が見つかりますが、ぜひ新版を出していただきたいものです。校正前の執筆原稿は、PDFファイルで高木氏により公開されています。『たまご博物館』にご関心のある方は、ホームページや書籍をご覧になっていただくのが一番だと思いますので、ここではこれ以上の紹介はしません。

 実は、私が気になっているのは、私たち大学にいる研究者が、こういったインターネットによる情報発信に対して努力が乏しいことです。残念ながら、卵に限らず、牛乳、食肉などの食品でも、大学の研究室や研究者個人が運営している充実したホームページは、ほとんど見当たりません。「牛乳博物館」、「食肉博物館」、「乳酸菌博物館」、「米博物館」、「大豆博物館」、「魚博物館」といったホームページを開設して、積極的に良質な情報を発信するのは非常に重要なことではないでしょうか。


 研究者の多くは、論文や書籍など印刷物の業績を重視しますが、これらの情報の利用者は限られています。まだインターネットによる情報発信が業績として評価されにくいのが、充実したホームページの増加を阻んでいる理由のひとつとしてもあげられています。しかし、最近では公的研究費の報告書にホームページの記載欄が設けられるなど、少しずつ変化しているのが感じられます。先日、米国の大手出版社から受け取った原稿執筆要領には、引用文献欄(Bibliographies)とは独立した引用ウェッブ欄(Webliographies)の記載形式が示されており、インターネット情報が印刷物と同等の扱いを受けるようになりつつあります。きっと5年後には、今とはずいぶん違った状況になっていることでしょう。

 こんなことを書いている私自身も研究室や個人のホームページをまだ開設していません。大学から提供されている共通フォーマットに、研究テーマや業績など最小限の情報を流し込んだ形のものはありますが、情報発信に役立っているとは言えません。本稿を掲載しているフード・ペプタイド社のトピックスページが今のところ唯一のインターネットを通しての定期的な情報発信です。ただ、企業のホームページですから、発信内容に制限がないわけではありません。今年は研究室のホームページ開設を大きな課題として作業を進めています。下に『これからホームページをつくる研究者のために』(築地書館、2006/12出版)という書籍をあげましたが、目にしたときに思わず買ってしまったものです。研究者が開設したホームページの実例が多く載っているので、これからホームページを作ろうと思っている方には役立つ内容だと思います。


 インターネット時代になって、「情報は、発信するところに集まる」ということがよく言われています。最近、このことを私も実感しています。昨年の秋から、このトピックス欄に、月に2回原稿を掲載していますが、これを始めてから情報に対して敏感になりました。色々な方から情報をいただく機会が増えたことも有難いのですが、「情報発信することにより、アンテナの感度がよくなる」といった感じがあります。また、曲がりなりにも外に向けて発信するので、私なりに情報を集めて整理して原稿を作っています。この作業を行うことで、記憶にもとどまりますから、結局は自分のために発信しているようなものです。最近、「情報は、発信するところに集まる」は、私の密かな座右の銘になりつつあります。まだ発信量が少ないため、人前で胸を張って言えないのが残念なところです。

この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。
290:スパイス博物館と塩博物館(2019/08/19)
178:ヨーク・アウト(2014/12/10)
157:マヨネーズの話(2014/01/27)
156:オムレツの話(2014/01/10)
137:ちょっと便利な卵調理用グッズ(2013/03/25)
125:卵の色いろいろ(2012/09/25)
109:玉子酒と粉末酒(2012/01/25)
106:生卵と日本人(2011/12/12)
92:青森シャモロックホームズ(2011/05/10)
85:プリンの謎(2011/01/25)
65:「東京ミートレア」と「肉のミュージアム」(2010/03/24)
52:売れないのは誰のせい?(2009/09/11)
44:卵かけご飯ブーム(2009/05/11)
その他のトピックス | 10:29 | 2008.04.25 Friday |