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北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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機能性食品先進国フィンランド

No.22


 北欧の国フィンランドは、人口約530万人で、日本と比べれば小国と言ってよいかもしれません。福岡県の人口が約506万人ですから、サイズのイメージができるかと思います。この国は、色々な面で注目を集めるようになりました。もはや、サンタクロースとムーミンの国ではありません。IT先進国として取り上げられることが割合と多いのですが、福祉先進国、男女平等先進国、虫歯予防先進国、環境先進国、デザイン先進国といった様々な「先進国」としても紹介されます。


 ノキア(携帯電話端末の世界シェアトップ)のような企業の出現などもあり、日本でも一頃「フィンランドに学べ!」というようなことが盛んに言われました。私もフィンランドを訪れたことがありますが、質素ながらも豊かな生活をしている国という感じがしました。ちょっと評判になった日本人が製作したフィンランドを舞台とした映画『かもめ食堂』(2006年公開)からも、フィンランドの雰囲気を垣間見ることができます(映画はDVD化されています)。


 このフィンランドという国、実は「機能性食品先進国」でもあるのです。虫歯予防効果のあるキシリトールガムをご存知ない方はいないでしょう(写真左はムーミンの絵の入ったフィンランドの製品、右は日本の特定保健用食品)。キシリトールは、フィンランド発の食品素材として世界中に普及しています。日本では食品用途への使用が1997年に認められました。現在、日本のガムの80%以上がキシリトール配合製品となっています。ガム以外のキャンデーなども含めると、日本のキシリトール市場は、2000億円規模となっています。


 日本でのキシリトールブームの仕掛け人として知られている藤田康人氏(株式会社インテグレート社長)は、『99.9%成功するしかけ 〜キシリトールブームを生み出したすごいビジネスモデル〜』(かんき出版、2006年出版)という著書で、日本におけるキシリトールブームの経過を詳しく語っています。キシリトールに関心のある方にも、食品のビジネスモデルに関心のある方にも、とても興味深く読める本だと思います。藤田氏は、この欄(No.18「シトルリンブームは来るか」)でも取り上げた「シトルリン健康プロジェクト」の立ち上げにも関わった人物です。つい最近も、「5年後の健康ブームを予測する」という藤田氏のインタビュー記事(日経トレンディ、2008年7月号)を目にしましたが、短い記事ながら切れ味のある内容でした。


 フィンランド発の機能性食品は、キシリトールガムだけではありません。ヒト腸管由来の乳酸菌(プロバイオティクス)として非常に優れた性質を有するLactobacillus rhamnosus GG(GG菌)を利用した乳製品は、フィンランドの乳製品メーカーであるヴァリオ社とのライセンス契約により、世界30ヵ国以上で製造・販売されています。日本でもタカナシ乳業の製品で特定保健用食品にもなっている「おなかへGG!」(写真手前右)があります。


 血清コレステロール値を調節する作用をもつマーガリンである「ベネコール(Benecol)」も、フィンランド発の機能性食品です。ベネコールはフィンランドのライシオ社により1995年に開発されました。その後、アメリカではFDAがジョンソン・アンド・ジョンソン社の製品を許可し、日本でも2002年に特定保健用食品の表示許可を得た製品が登場しました。特にアメリカでは、マスコミで非常に大きく取り上げられたこともあり、注目の食品となりました。


 また、2003年から日本で登場しているフィンランド発の食品として「ナイトミルク」があります。ナイトミルクは夜中に搾乳した牛乳を利用した製品で、メラトニンという物質が多く含まれています。メラトニンは睡眠に関わる物質であり、これを多く含むナイトミルクを飲むことにより、安眠が得られるという説明です。ナイトミルクは日本でライセンス生産されており、大塚製薬」(写真左)と九州乳業(写真右)の製品が販売されています。


 日本は、世界に先駆けて機能性食品を法的に規定した「特定保健用食品制度」をもつ自他共に認める機能性食品先進国です。食品産業の規模や研究者の数も、フィンランドとは比べものになりません。しかし、独自製品の海外への発信という点に限って言えば、残念ながらフィンランドに負けてしまっています。こうなってしまった理由のひとつに、前回も取り上げた「産学官連携」のあり方が関係しているようです。


 フィンランドにおける機能性食品の研究開発は、国策とも言えるものです。フィンランド技術庁は「食品の革新」と名付けた国家プロジェクトを展開し、民間企業や大学に研究資金を投入してきました。また、国として海外における戦略も重視しており、フィンランド技術庁による企業向けの機能性食品セミナーは日本でも開催されています。このようなセミナーでは、フィンランド人研究者による機能性食品に関する研究発表や、機能性食品開発メーカー(ヴァリオ社など)の製品紹介がされています。さらに、産学官連携の場として重要な役割を担うものとして、ファンクショナル・フーズ・フォーラム(FFF)もフィンランド国内に設立されています。


 日本のような国内市場の大きな国では、国内でヒットするだけで新製品は十分に成立します。しかし、フィンランドのような小さな国では、最初から海外市場を視野に入れなければ、研究開発投資をすることはできません。冒頭で、フィンランドの人口が約530万人だと書きました。私が住んでいる北東北3県(青森、岩手、秋田)の人口は、約410万人です。フィンランドよりも少し小さいくらいのサイズですが、製造業の活性はかなり低いと言わざるを得ません。北東北は、食料生産地域としての重要性が高いのですが、フィンランドも穀物自給率114%という農業を重視した国です。現在、日本では道州制の議論が始まり、東北6県をひとつの州にする案が有力なようですが、北東北3県というサイズも悪くないかと思っています。北東北3県の産学官が本気で叡智を結集すれば、フィンランドのように国際競争力のある産業を生み出す可能性も充分にあるのではないでしょうか。これは何も機能性食品に限った話ではありません。
この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。
39:花粉症と乳酸菌(2009/02/25)
27:機能性食品の可能性と限界(2008/08/25)
11:健康食品・機能性食品・特定保健用食品(2007/12/25)
食品のトピックス | 12:17 | 2008.06.10 Tuesday |