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北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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発酵食肉製品の魅力

No.23


 皆さんは「発酵食品」と言われると、どんな食品を思い浮かべるでしょうか。チーズ、ヨーグルト、納豆、漬物、味噌、醤油といったものをあげる方が多いと思います。もちろん、日本酒、ビール、ワインといったアルコール飲料も発酵食品です。これらの食品は、いずれも微生物の働きを上手に利用して造られます。


 そんな発酵食品のひとつに、「発酵食肉製品」があります。残念ながら日本の食肉製品は、ヨーロッパ諸国のものには及ばない部分も多く、発酵食肉製品も日本ではあまり造られていません。これは、食肉利用の歴史の長さから考えると、仕方のないことかもしれません。海外旅行をすると、日本食の素晴らしさを実感しますが、食肉製品に限ってはヨーロッパのものが優れていると言う方が少なくありません。その種類の豊富さも、日本とは比べものになりません。『ハム・ソーセージ図鑑』(財団法人伊藤記念財団、2001年発行)を見ると、私たちが日本のスーパーで目にする食肉製品は、非常に限られたものだということがわかります。この図鑑は、残念ながら非売品で購入することはできません。きれいな写真の多い優れた書籍ですので、是非とも再出版・販売していただきたいところです。


 ヨーロッパの食肉製品が多様かつ魅力的である理由のひとつに、微生物を利用した発酵食肉製品の存在があげられます。代表的な発酵食肉製品である「発酵ソーセージ」の製造過程例を、下の図に示しました。近代的な製法では、ミンチにした原料肉(主として豚肉)に乳酸菌などのスターター微生物を接種しますが、伝統的な製法では自然発酵(自然に混入する微生物を利用)に委ねます。発酵ソーセージは、熟成期間の長い「ドライソーセージ」と、比較的短期間で作られる「セミドライソーセージ」に大別されます。ドライソーセージは、12〜14週間の製造期間を経て、水分含量20〜30%程度の製品となります。一方、セミドライソーセージは、1〜4週間の製造期間で、水分含量30〜40%程度の製品です。


 長期間の発酵・熟成過程を経て造られるドライソーセージは、微生物(細菌、カビ、酵母)の種類や製造方法により、製品がバラエティーに富んでいます。典型的なドライソーセージに「サラミ」があります。サラミは日本でもお馴染みの食肉製品ですが、現在国内で製造されている大部分の製品は、ヨーロッパのものと比べるとシンプルな製法により造られており、微生物の働きはあまり関与していません。イタリアやスペインといった国を訪れる機会があれば、ぜひ本格的なドライソーセージをお試しください。パリのマルシェ(市場)も各国の食肉製品が多く集まるので、お勧めの場所です。写真に示したのは、スペインの食肉製品売場(左)とイタリアのSalami Norcinetto(右)です。


 「生ハム」も発酵食肉製品の範疇に入る食品です。生ハムは、日本でもかなり一般的な食肉製品となってきていますが、日本で造られている製品はヨーロッパのものとは少し違います。日本の生ハムの大部分は、「ラックスハム」と呼ばれるもので、ヨーロッパの代表的な生ハムであるイタリアのプロシュート(パルマハム)やスペインのセラーノハムに比べると短期間で造られるため、微生物の関わり(発酵)が乏しい製品です。

 ヨーロッパの伝統的な製法で造られる生ハムは、芳醇な風味と美しい色調を備えたとてもゴージャスな食品です。長い熟成期間中に、生ハム製品の表面には自然に複雑な微生物叢が形成されます。これらの微生物により産生されるエステル類が特徴あるフレーバーを製品に付与します。中には日本の生ハムの方が美味しいという方もいますが、深みのある味わいとしては、1年近い熟成期間を経て造られるパルマハムやセラーノハムに軍配があがりそうです。下の写真は、スペインの生ハム(セラーノハム)売場の様子です。


 日本で発酵食肉製品がこれまであまり浸透しなかった理由として、発酵させた畜肉を食する習慣がなかったことなど、いくつかのことがあげられます。しかし、現在、私たち日本人の食卓でも確固たる地位を築いているチーズやヨーグルトなどの発酵乳製品も、1960年代までは非常に少ない消費量でした。これを考えると、今後、日本でも発酵食肉製品が発展する余地は十分にあるのではないでしょうか。

 また、従来、日本の食品衛生法は、発酵食肉製品を製造するには厳しい基準を設けていました。しかし、1993年の改正により、だいぶ発酵食肉製品の製造が行いやすくなりました。これにより、国内における発酵食肉製品の生産量も徐々にですが増えつつあります。


 今日、ヨーグルトや納豆など、多くの伝統的な発酵食品が機能性食品として注目されています。美味しくて体に良い食品として、発酵食肉製品も新たな可能性が見つけられそうです。体によい乳酸菌(プロバイオティクス)を利用した日本独自の食肉製品の開発も試みられています。また、発酵ソーセージや生ハムの発酵・熟成中に、タンパク質の分解により生理活性ペプチドが生成することも見出されています。近い将来、発酵食肉製品が機能性食品として見直されることがあるかもしれません。

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食品のトピックス | 11:10 | 2008.06.25 Wednesday |