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北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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ペットフードと特許

No.24


 以前、食品特許の特徴について解説しました(No.17「食品と特許」参照)。今回は、ペットのための食品であるペットフードの特許を取り上げることにします。ペットフードは、われわれ人間の摂取する食品と共通する部分を備えているので、特許においても食品と同様の特徴を有しているものと考えていました。しかし、ペットフードに関する特許出願の全体的な状況を調べてみると、食品の特許とはちょっと異なるように感じられました。

 最初に、特許情報の検索について、少しだけ触れておきます。今日では、特許庁の特許電子図書館(IPDL)がインターネットで利用できるため、かなり手軽に検索が行えます。利用方法は、IPDLのホームページに説明がありますが、特許庁の作成したマニュアル(無料)や、市販の解説書(たとえば、「特許・実用新案・意匠・商標の調査とパテントマップ作成の手引き」日本法令, 2008)もあります。IPDLで検索できる特許情報の中心は、平成5年以降のものですので、完全な検索はできませんが、かなりの特許情報を得ることができます。特許事務所や企業の知的財産部等における高度な特許検索には、民間の有料データベースであるPATLIS(株式会社パトリス)がよく利用されているようです。それでは、まず、IPDLの「広報テキスト検索」の画面から、「ペットフード」など5つのキーワードを用いて検索した結果を見てみましょう(下表)。


 平成5年以降の約15年間に、ペットフードに関係する特許出願が444件公開されています。また、同じ期間に72件が特許庁の審査を通り特許として登録されています。右端の数字(B/A)は、出願数と登録数の比率を見たものですが、登録されたものの中には平成5年より前に出願されたものも含まれているため、正確な特許化率を示すものではなく、キーワード間の数字を比較するための目安でしかありません。

 私が特許情報を検索する対象は主として食品ですが、食品分野は他の産業分野に比べると、その経済規模の大きさの割には特許の数が少ないと言われています。ペットフードの特許出願数は、その食品よりも大幅に少なく、化粧品や飼料と比べてもかなりの差があります。ペットフードの特許出願数が食品の約1%というのは、さすがに少な過ぎるのではないでしょうか。特許登録数に至っては、食品の約0.7%という数字です。ペットフードの特許化率の低さも気になります。


 上の表の特許出願444件には、ペットフードを主たる発明対象としていないもの(たとえば、「食品・飼料・化粧品・ペットフード」といった広範なものを対象としたもの)も含まれています。そこで、ペットフードとの直接的な関連が高い出願に絞った検索を行いました。今度は、「発明の名称」に「ペットフード」が含まれるものを検索しました。その結果、196件の特許出願が抽出されました(下表)。ただし、特許の出願書類の「発明の名称」は学術論文のタイトルとは異なり、内容をきちんと反映していないため、ペットフードに関する出願を網羅しているわけではありません。一般に、「発明の名称」は非常に簡単(いい加減?)なものが多く、ペットフードに関するものであれば、単に「ペットフード」というだけのものも珍しくありません。また、「ペット用食品」といった言葉を使用しているものもありますので、ここで示す結果はあくまでも大まかな傾向をつかむためのものです。


 特許出願196件の出願人内訳は、上の表のとおりです。国内のペットフードメーカーからの出願が思っていたよりも少なかったのは、ちょっと寂しい感じがしました。日本のペットフードメーカーには、本格的な研究所や特許を扱う専門部署(知的財産部など)を擁する大規模な企業が少ないことも一因なのかもしれません。海外企業からの出願64件のうち、スイスと米国の大手4社が49件(77%)を占めているのも印象的です。また、大学や公的研究機関からの出願がほとんどないのも、ペットフード特許の特徴のひとつと言えるでしょう。

 196件のペットフードに関する特許出願を技術内容で見ると、ペットフードの組成・成分、製造方法・装置、包装方法・容器、販売方法、管理システムなど多岐にわたっています。ここでは、私自身が関心をもっており、ある程度の内容を理解することができる「機能性ペットフード」(No.4「機能性ペットフードの可能性」参照)に関係する76件について、整理してみました(下表)。


 この表を見ると、「肥満」と「排泄物臭気」をターゲットとした特許出願が多いことに目がとまります。これは食品特許の状況とは明らかに異なっており、ペットフード市場あるいは開発トレンドを反映していそうです。人間の機能性食品のターゲットとして重要な高血圧症に関連するものが見当たらないのも、特徴のひとつでしょう。利用している機能性成分(表の右側に例示)は、すでに食品素材として知られているものが中心で、残念ながら学術的な新規性はやや乏しいように感じられます。私が注目している素材であるペプチド(No.10「ペプチドは魅力的なペットフード素材」参照)も、食品と比べるとペットフードでは出現頻度が非常に低くなっています。

 機能性ペットフードに関する特許の出願を行っている主な企業の顔ぶれは、上述の全体196件の場合とほぼ同様ですが、ライオン、王子製紙、松下電器産業といったちょっと意外な企業の名前も見つかります。これまで機能性食品の分野でも、製薬や化学といった食品以外の領域の企業が多く参入してきました。機能性ペットフードの開発にも、今後さらに、様々な領域の企業が名乗りをあげることが予期されます。


 ペットフードメーカーの方に聞いた話では、人間の食品用のいわゆる機能性素材のセールスを受ける機会がよくあるそうです。しかし、必ずしもイヌやネコを対象としたデータがあるわけではなく、「人間の食品に利用されているので、ペットフードでもどうでしょうか」といったレベルの話が多いようです。ヒトで効果がある(あるいは安全である)からと言って、イヌやネコでもそうだとは言えません。さらに言えば、すでに食品素材として特許出願(登録)されているものは、新たなペットフード素材として特許が認められにくいですし、それを利用したペットフードも基本的には同様でしょうから、独自性の高いペットフードの開発により、他社との競合において優位性を確保するのも難しいのではないでしょうか。ペットフードのために開発された新しい機能性素材など、画期的な発明(特許)が増えていくことを期待したいものです。


 以前にも述べたように(No.7「ペットフードの安全性確保を巡る情勢」参照)、わが国のペットフード産業の置かれている環境はまだ充分に整備されておらず、安全性確保ひとつを見ても食品産業に比べると随分遅れていました。この春、ようやく「愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律案」が国会を通過し、来年から施行される見通しです。しかし、ペットフードの保健的な機能性については、人間の特定保健用食品(トクホ)に相当するような法的なお墨付きを与える制度はまだなく、「機能性ペットフード」は依然として曖昧な製品群のままです。近い将来、ペットフード版トクホのような制度の誕生を検討する必要もあると思います。

この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。
220:機能性食品と特許 〜食品の用途発明〜(2016/09/12)
191:メイラード反応と特許(2015/06/25)
188:特許情報プラットフォーム(2015/05/11)
155:ペットフードと乳酸菌(2013/12/25)
154:ペットフードの書籍を監修(2013/12/10)
153:ネコにタウリン(2013/11/25)
152:ペットフードの歴史(2013/11/11)
136:「a-iペプチド」とキャットフード(2013/03/12)
86:乳酸菌・ビフィズス菌と特許(2011/02/10)
70:気になるペットビジネス(2010/06/11)
68:「猫にマタタビ」の科学(2010/05/10)
61:ペプチドと特許(2010/01/25)
21:産学官連携でペットフード開発(2008/05/26)
17:食品と特許(2008/03/25)
10:ペプチドは魅力的なペットフード素材(2007/12/10)
7:ペットフードの安全性確保を巡る情勢(2007/10/26)
4:「機能性ペットフード」の可能性(2007/09/07)
ペットフードのトピックス | 10:57 | 2008.07.09 Wednesday |