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北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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アスタキサンチンと化粧品

No.25


 富士フイルムの化粧品「アスタリフト」が好評だそうです。ご存知の方が多いと思いますが、松田聖子さんと中島みゆきさんの豪華コンビが登場するなかなかの出来ばえのCMがテレビで流れています。まだご覧になっていない方は、こちらからどうぞ。宣伝用ポスターの撮影には、あの篠山紀信氏を起用したということですから、これでもかというくらいの力の入れようです。「なぜ富士フイルムが化粧品を?」という疑問に答えるかのように、おふたりの美女が「ありだと思う。フジフイルムの化粧品。」と、ポスターで微笑んでいます。


 アスタリフトという製品名は、「アスタキサンチン」という物質名にちなんでいます。アスタキサンチンは、以前からサプリメントや化粧品に利用されていましたが、アスタリフトの登場で初めて耳にされた方も多いかもしれません。アスタキサンチンは、魚介類などに存在する赤色色素で、カニやエビの背甲、サケやマスの肉、イクラ、真鯛の表皮などに赤い色調をもたらしています。興味深いところでは、フラミンゴやトキの羽毛にも含まれています。

 ただ、脊椎動物はアスタキサンチンを体内で合成することができないため、魚類や鳥類の有するアスタキサンチンは、すべて食物由来のものです。食物連鎖により、藻類などのアスタキサンチンが甲殻類に移行し、さらにこれを餌とする魚類などの体内に蓄積されます。魚類の中でもサケは、特にアスタキサンチンを効率よく筋肉に蓄積し、その強い抗酸化作用が激しい運動に耐えるために役立っています。


 現在、化粧品などに配合されているアスタキサンチン素材は、ヘマトコッカス・プルビアリス(Haematoccous pluvialis)という藻類由来のものが中心です。サプリメントや化粧品の成分表示には、「ヘマトコッカス藻抽出物」や「ヘマトコッカス・プルビアリス油」等の表示がされている場合が多いようです。アスタキサンチン素材の供給企業一覧がまとめられていますので、関心のある方はご覧ください。「富士化学工業」という会社が供給シェアトップとのことです。

 なお、今年の春、富士フイルムが「富山(とやま)化学工業」という会社を買収したというニュースがありましたが、富士化学工業とはまったくの別会社で、間違われることも多いようです。ややこしいことに、富士化学工業の関連会社(株式会社ナチュリル)も、「アスタキュア」というアスタキサンチン配合化粧品を出しています。


 アスタキサンチンの働きは色々と調べられていますが、食品や化粧品では抗酸化作用が注目されています。アスタリフトの広告でも、「コエンザイムQ10の1000倍の抗酸化力」といったことが強調されています。俗に悪玉酸素と呼ばれている活性酸素により、体調不良や疾病などが引き起こされるため、悪玉酸素を抑える抗酸化物質を含んだ食品が多く登場しています。よく知られている抗酸化物質として、ビタミンC・E、コエンザイムQ10、ポリフェノール、βカロチンなどがあります。

 化粧品においても、紫外線による活性酸素の発生がシミ・ソバカスといった肌のトラブルの原因になることから、抗酸化物質配合の製品が多数あります。アスタキサンチンは、βカロチンに似た構造(下図)を有する物質(カロテノイド)で、生体に吸収されやすいことも特徴のひとつです。


 余談ですが、熱帯魚が鮮やかな美しい体色を有しているのも、紫外線から身を守るために抗酸化物質(色素)を作っているからで、熱帯魚を飼育する際に紫外線を当ててやると、よりきれいな体色になるそうです。海面近くで強い太陽光を受けている魚やサンゴほど色鮮やかだという話もあります。植物も同様で、強い紫外線にさらされているものは、大量の抗酸化物質を作っています。以前、紹介した「シトルリン」(No.18「シトルリンブームは来るか」参照)も抗酸化物質で、灼熱のアフリカの砂漠に自生する野生種のスイカには特に多く含まれています。


 富士フイルムでは、ナノテクにより肌への浸透に優れたアスタキサンチンの極小粒子の開発に成功し、これをアスタリフトに用いています。また、この製品に盛り込まれている富士フイルム自慢の技術としてコラーゲンに関するものもあります。写真フイルムにはコラーゲン(ゼラチン)が利用されているため、富士フイルムにはコラーゲン研究に関する膨大な成果の蓄積があり、これを化粧品開発にも生かしたそうです。コラーゲンも極小化(ピココラーゲン)により、肌の奥まで浸透できるような工夫がされているとのことです。

 なお、アスタリフトの製品化にいたるまでの経過は、開発を担当された富士フイルムライフサイエンス研究所の中村善貞氏が、日経BPネットの連載コラム『ものづくりの軌跡』で詳細に語っておられるので、ご覧ください。私も「デジカメの普及でフイルムメーカーも経営の多角化を迫られての化粧品市場への参入かな?」と思っていましたが、このコラムによると、すでにフジフイルム全体の売上に占める写真フイルムの割合は3%に過ぎず、医療分野等へはかなり以前から注力してきたそうです。また、アスタリフトは化粧品というよりも「予防領域」や「アンチエイジング」として位置づけていることや、この製品を富士フイルムブランドで販売するかどうかの決定に至るまでの興味深い話も語られています。


 ヤマハ発動機が製造販売しているアスタキサンチン配合サプリメントに、「アスティボ」という製品があります。ホームページを見ると、「なぜヤマハ発動機なの?」というページが用意されています。富士フイルム風に言えば、「ありだと思う。ヤマハ発動機のサプリメント」ということになるのでしょうか。しかし、私もホームページを見て驚いたのですが、ヤマハ発動機はアスタキサンチン素材を自社工場で生産販売しており、ライフサイエンス事業に本格的に力を入れている様子です。

 さまざまな領域における大手企業の異業種参入は、既存の企業にとっては大きな脅威となっていることでしょう。とくに、食品、化粧品、ペットフードといった業界には、規模の小さな企業も多いため、研究開発やマーケティングといった資金力を必要とする面からの苦戦が強いられるのは否めないのではないでしょうか。私は、その活路を開く方策のひとつとして「産学官連携」があると思っています(No.21「産学官連携でペットフード開発」参照)。
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126:セラミドと美肌食品(2012/10/10)
115:カタツムリ・ナマコ・キャビア(2012/04/25)
103:グルコサミン・ヒアルロン酸・コンドロイチン硫酸(2011/10/25)
95:ヘビ毒ペプチドでスキンケア!?(2011/06/24)
53:ペプチドと化粧品(2009/09/28)
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