2008.08.11 Monday
チーズも機能性食品
No.26
世界各地の様々な伝統的発酵食品が、これまでに機能性食品として評価されてきました。”Handobook of Fermented Functional Foods”(発酵機能性食品ハンドブック)という本を見ると、ヨーグルトなどの発酵乳についての記述が主体となっていますが、納豆、味噌、漬物(キムチなど)、発酵肉(畜肉および魚肉)といった発酵食品も、機能性食品としての研究がかなり進んでいることがわかります。発酵(微生物の働き)により、原料の食材は貯蔵性や嗜好性が飛躍的に高まることが古くから知られていましたが、保健的な機能性が付与されることも、かなり一般的なことと考えてよいのかもしれません。
牛乳や乳製品に対して、多くの方は健康に良いイメージをもっているようです。ヨーグルトを中心とする発酵乳は研究成果も多く、科学的にも機能性食品としてとらえられており、”Functional Dairy Products”(機能性乳製品)という言葉がよく使われています。私たちの身近なところでも、プロバイオティクス(probiotics)とよばれる体に良い乳酸菌やビフィズス菌を利用したヨーグルトが数多く店頭に並んでいるのを見かけます。一方、チーズも代表的な発酵乳製品ですが、「体に良い」食品としてはヨーグルトほど認識されていません。今回は、このチーズについて、機能性食品という観点から取り上げてみます。
牛乳を主原料とするチーズには、良質なタンパク質やカルシウムが多く含まれていることがよく知られています。しかし、その一方で、脂肪の多い高カロリー食品であることが、マイナスのイメージを与えているのかもしれません。ただ、カロリー摂取量は、トータルの食生活で考えるべきことであり、チーズの魅力を下げるものではないと思いますし、チーズには抗肥満効果があるという報告も見られます。最近、チーズの新たな保健的機能が次々と明らかにされています。主なものを下に並べてみました。なお、チーズの保健的な機能については、北里大学獣医学部の向井孝夫教授(筆者の同僚)による最新の解説がありますので、ぜひご参照ください。
ここにあげた項目を見ると、チーズには隠された多彩な作用があることに驚かれるのではないでしょうか。ただし、これらの働きは基礎的な知見にとどまっているものもありますので、今後の研究の発展が待たれます。チーズは発酵・熟成を経ることにより、原料の牛乳成分に様々な変化が起きています。たとえば、タンパク質が分解されてペプチドが生成します。このようなペプチドには、血圧降下や免疫調節などの生理的な機能があります(No.1「注目される食品成分ペプチド」参照)。また、チーズに多く含まれている牛乳由来の共役リノール酸(CLA)には、ガン抑制作用や体脂肪低減作用などがあります。
最近、北里大学の向井教授のグループは、ブルータイプチーズの抽出物にピロリ菌(胃潰瘍原因菌)の増殖を顕著に抑制する作用があることを明らかにしました。彼らの研究によると、ミリスチン酸などの遊離脂肪酸がこの活性を担っているとのことです。今後、「チーズを食べて胃潰瘍を予防!」といったことが言われるようになるかもしれません。また、製造方法の改良により、ピロリ菌に対する効果の強力なチーズの開発も考えられます。
日本では、保健的な機能性を強く主張しているチーズ(機能性チーズ?)を見かけることはまだありませんが、海外では機能性食品として開発されたチーズがいくつか登場しています。機能性食品先進国フィンランド(No.22参照)のイングマン社からは、プロバイオティック乳酸菌としてよく知られているLactobacillus reuteri(ロイテリ菌)を利用したチーズが出されています。イングマン社のロイテリ菌を使用した”RELA”シリーズの製品には、チーズの他にもヨーグルトなどの発酵乳もあります。また、米国のクラフト・フーズ傘下のブレイクストーンズ社は、食物繊維(プレバイオティクス)を添加したカッテージチーズ”Cottage Cheese for Digestive Health”を製品化しました。この食物繊維の摂取により、腸内の善玉菌(乳酸菌やビフィズス菌)が活性化されるとのことです。
日本の乳製品メーカーも機能性チーズの開発には注目しており、多くの研究成果を学会等で発表しています。今後、これらの研究は日本人好みの「美味しくて体に良い」チーズの開発につながることでしょう。さらには、チーズ先進国の欧米でも受け入れられる日本発の独創性の高い機能性チーズの誕生にも期待したいところです。
食品のトピックス | 11:12 | 2008.08.11 Monday |