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北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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機能性食品の可能性と限界

No.27


 私の勤務する北里大学は、「農医連携の教育・研究の推進」を大学全体の目標の一つに掲げています。この取り組みの一環として、「北里大学農医連携シンポジウム」が年2回開催されています。なお、この「農医連携」そのものの意義についても触れたいところですが、これについては別の機会に譲ることにします。農医連携にご関心のある方は、北里大学のホームページをご覧ください。(下の写真は、北里大学の学祖である北里柴三郎博士。写真周囲の4つの言葉は、北里大学の建学精神。)


 今秋に開催される第6回北里大学農医連携シンポジウムは、「食の安全と予防医学」をテーマとしています。私も演者の一人として指名され、「機能性食品」の話をするよう要請を受けました。まずはタイトルだけ出して欲しいとの連絡があり、「機能性食品の可能性と限界」としました。具体的な内容が決まっていたわけではなく、ちょっと響きの良さを優先して決めてしまいました。タイトルとしては悪くないと思っていますが、どういう内容にしたものかと思案しています。ということで今回は、この講演の準備を兼ねて、機能性食品の「可能性と限界」について少し考えてみることにしました。

 これまで、機能性食品の可能性については、研究者も業界関係者もよく論じてきました。平成3年に特定保健用食品制度が発足し、機能性食品への期待も大きく高まりましたが、当時思い描かれていたような発展を遂げたとは言えません。しかし、相変わらず食品の保健的な働きに対する一般の方々の関心は高く、ちょっとした動物実験のデータだけで、マスコミは食品の新機能を取り上げ、ときとしてブームになったりしています。「可能性」について論じるのは、簡単なことですし、気持ちも楽です。しかし、一方の「限界」についての議論は、少し避けられてきた感もあります。最近の家計調査結果は、健康食品に対する支出が頭打ちになっていることを示しており、市場的な限界も囁かれるようになってきています。そろそろ、機能性食品の可能性と共に限界を、産・学・官でしっかりと議論する時期に来ているのかもしれません。


 京都大学の村上明先生が、『フードスタイル21』という雑誌に、「機能性食品科学の周辺」という連載を執筆されており、私も毎回楽しみに拝見しています。昨年(2007年)の11月号(11巻11号, 92〜94頁)には、「健康食品についての雑感」と題した原稿が掲載されましたが、「健康食品は必要か?」という非常に大きな問題について、意見を述べられています。食品の機能性研究の第一線で活躍されている研究者によるものだけに、注目して読みました。かなり大胆な本音を示されていましたが、共感するところが多々ありました。あるフォーラムで、「健康食品は本当に必要ですか?」という問いかけに対して、国立健康・栄養研究所の梅垣敬三先生が「大部分の人はいらないと思う」と答えたこと(フードスタイル21, 11巻8号, 28頁, 2007)を引用したうえで、村上先生も「多くの人は怠惰だから健康食品を利用する、健食に依存している多くの人は安直だ」と率直な考えを述べられていました。また、NR(栄養情報担当者)をツアーコンダクターに例え、研究の世界と社会を結びつけることの重要性を指摘している部分なども、頷けるご意見でした。

 以前、この欄で「健康食品・機能性食品・特定保健用食品」(No.11)について簡単に解説しました。その中でも触れましたが、私は「健康食品」という言葉のもつ怪しげなイメージが好きではないので、もっぱら「機能性食品」という言葉を使っています。私は、科学的な根拠や明確な摂取意義がある食品を機能性食品だと考えています。しかし、機能性食品が必要であるかどうかの判断は消費者に委ねればよいと考えてきたところがあり、少し反省もしています。ただ、機能性食品の選択にあれこれ思いを巡らせるよりも、第一に食生活全体を考えるべきであることは疑いのないことで、「食育」 (No.12「食育の大切さを考える」参照)も関係してきます。


 特定保健用食品(794品目, 2008年7月現在)は言うまでもなく機能性食品ですが、病者用食品などの特別用途食品も機能性食品の範疇に入るのであれば、「必要」である機能性食品は間違いなくかなり多くあります。特別用途食品として法律で定められているのは、病者用食品(アレルゲン除去食品等)、妊産婦・授乳婦用粉乳、乳児用調製粉乳、高齢者用食品があり、505件の食品が許可されています(2008年3月現在)。もちろん、特定保健用食品(トクホ)や特別用途食品、そしてそれらを規定している制度(法律)に問題がないわけではありません。たとえば、トクホの表示のわかりにくさや医薬品との差別化などは、依然として大きな課題です。

 ただ、もっと重要な問題は、一般に販売されているトクホ以外の機能性食品の存在ではないでしょうか。科学的根拠のまったくないイメージ商品的な健康食品は論外ですが、十分な科学的データが存在するトクホではない機能性食品もあります。明治乳業の『LG21』などは、かなりよい機能性食品だと思っています。しかし、この種のトクホとして認められていない機能性食品は、機能をダイレクトに消費者に伝えることができません。花粉症の症状軽減に効果がある発酵乳に関する研究も盛んですが、データ根拠のある製品よりも何もない製品の方が効果のありそうなパッケージ(イメージ表示)をしていたりします。ヨード卵を初めとするいわゆる「特殊卵」も、トクホとしては認められていないため、消費者は真の機能に基づいて商品選択をすることが困難な状況にあります。良い機能性食品が怪しげな健康食品と一緒に扱われてしまうのは、きわめて遺憾なことです。現在のトクホ制度だけでは、この状況を打開するのは難しいように思われ、限界を感じます。


 ちょっと話が脇道にそれてしまい恐縮ですが、ペットのための機能性食品(機能性ペットフード)は、人間の機能性食品以上に重要なものではないかと考えています。今日、多くの犬や猫は自分たちで食物を選択できる環境にはなく、飼い主から与えられるペットフードを摂取しており、食事の大部分は加工品で構成されています。犬猫自身が食生活を考えることができないばかりか、もはや飼い主がバランスを考えて餌(肉や野菜など)を与えることも現実的な状況ではなくなっています。ストレス性疾患やアレルギー疾患が急増する中で、良質なペットフードが求められています。市販されているペットフードの多くは、すでに機能性ペットフード的な性質を備えていると言えるのかもしれません。機能性ペットフードについては、以前、少し触れましたが(No.4「機能性ペットフードの可能性」参照)、別の機会にあらためてその「可能性」を考えてみたいと思っています。

 結局のところ、私は「健康食品は必要ないが、機能性食品は必要である」と考えています。今回、大きな課題を取り上げましたが、「可能性と限界」までに踏み込むこともなく、とりとめのない話になってしまいました。これから、「機能性食品の可能性と限界」についてのメッセージをうまく伝えられるよう頭をひねっていきたいと思っています。冒頭で触れた第6回北里大学農医連携シンポジウム「食の安全と予防医学」は、10月24日に北里大学相模原キャンパスで開催されます。ご関心のある方は、ぜひご来場ください。シンポジウムの詳細については、もう少しすると北里大学のホームページでご覧になれるはずです。

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※現在、「第6回農医連携シンポジウム」の講演映像が、
オンデマンド配信されていますので、ご覧ください。
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〜追記〜

2009/08/25


 本文中で紹介しました「食の安全と予防医学」をテーマとした第6回「北里大学農医連携シンポジウム」の内容が、書籍として出版されました。詳しくは出版社(株式会社養賢堂)のホームページをご覧ください。

 なお、私の所属する北里大学獣医学部動物資源科学科では、医学部の全面的な協力のもとに画期的な農医連携教育プログラムを推進し、「農」と「医」の視点をもつスペシャリストの養成をしています。農医連携教育プログラムのホームページに詳しい説明がありますので、ぜひご覧ください。



この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。
192:ビールでも機能性食品(2015/07/10)
103:グルコサミン・ヒアルロン酸・コンドロイチン硫酸(2011/10/25)
77:体に良い食品なんてない!(2010/09/27)
64:動物資源科学科の農医連携教育(2010/03/10)
58:「消費者庁許可」特定保健用食品の行方(2009/12/11)
46:ペプチドと特定保健用食品(2009/06/10)
28:農医連携シンポジウム(2008/09/10)
11:健康食品・機能性食品・特定保健用食品(2007/12/25)
4:「機能性ペットフード」の可能性(2007/09/07)
食品のトピックス | 10:53 | 2008.08.25 Monday |