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トピックス

北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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ドリアンは臭くない!?

No.33


 ドリアンは、「果物の王様」という栄誉ある称号(?)をもつ一方で、バラエティー番組の罰ゲームに登場するように、強烈な臭気を放つ厄介な果物とも思われています。私も、ドリアンチップやドリアンチョコレートといったお菓子類は何回か食べたことがありましたが、これらを美味しいと感じたことはありませんでした。しかし、一度は本物の「果物の王様」を食べてみたいと、ずっと思っていました。最近では、デパートなどでドリアンをよく目にするようになりましたし、インターネットで検索すると、扱っている業者も多く見つかります。ただ、日本に入ってきているドリアンはあまり美味しくないという噂も聞いていたので、買ってみる踏ん切りがつきませんでした。
 (下の写真は、後述のシンガポール・チャイナタウンで撮影したものです)


 先日(2008/11/3〜8)、マレーシア国民大学(National University of Malaysia)に客員教授として招かれる機会がありました。そのときの様子については、北里大学獣医学部のホームページに「野生のサルが闊歩するマレーシア国民大学」という簡単な報告がありますので、そちらもご覧ください。残念ながらマレーシアではドリアンを食べるチャンスがなかったのですが、帰りにトランジットで立ち寄ったシンガポールで、悲願を果たすことができました。シンガポールでは、地下鉄やホテルなどで「ドリアン持ち込み禁止」の表示があることを聞いていましたが、探してみると確かに見つかりました。


 チャイナタウンの露店(写真上)ではドリアンが山積みにされ、皆さん買ったその場で美味しそうに食べていました。現地の人たちは、数多くのドリアンの中から、形や色を見たり、匂いを嗅いだりして、慎重に目指す一品を選んでいましたが、私にはその選択基準がまったくわかりませんでした。

 ドリアン売りのオヤジさんには、あまり英語が通じなかったのですが、何とか「初めて食べるから、初心者にベストの一品を選んでくれ」と伝えました。そうしたところ、一番高いもの(12シンガポールドル、約800円)を勧められました。売れ筋は、5シンガポールドルのものでしたので、外国人観光客だと思って高いのを売ろうとしているのではとも思いましたが、たくさんのドリアンを吟味して一所懸命選んでくれているように見えました。「これが良い!」という感じで選び出した1個に、ナタで切れ目を入れて中身(果肉)をちらりと確認したうえで、「よしよし」と自信ありげに手渡されました。かなり小ぶりなドリアンで、ちょっと損をした感じもしましたが、ひとまず買うことができたので、ホッとしました。下の写真からもそんな表情が覗えるのではないでしょうか。


 トゲのある外皮を割ると、思いのほかボリュームのある黄色くて綺麗な果肉が現われました(写真下)。においはどうかというと、正直なところ、たいして臭くはありませんでした。確かにちょっと刺激があり、良い香りという感じではありませんでしたが、ヨーロッパのナチュラルチーズの中には、ドリアンよりもはるかに強烈なものが多くあります。よくドリアンの臭いは、「腐ったタマネギ」とか「プロパンガス」のようだと言われますが、私にはそれほど気になりませんでした。ただ、ドリアン初心者のためにマイルドなものを選んでくれたことは十分に考えられます。

 肝心の味の方は、予想していたよりもはるかに美味しいものでした。これも選んでくれたオヤジさんのおかげかもしれません。なかなか他の食品にたとえるのは難しいのですが、ねっとりした食感はクリームチーズやカスタードクリームに似てないこともありません。ずいぶん前に食べたことがあるフォアグラのパテが頭をよぎったりもました。風味はかなり濃厚で、多少たりとも共通点がある果物は、マンゴーくらいでしょうか。こればかりは、どうも言葉ではうまく説明できません。


 日本に帰ってからドリアンのことを詳しく知りたくなり、アマゾンで書籍を探したところ、下の写真に示した2冊が見つかり、早速読んでみました。これらの書籍は同時期(2006/10〜12)に出版されているため、互いに引用されることはなく両者の記述に重複部分も多いのですが、いずれも写真が多く平易かつしっかりと書かれた良書です(書誌事項は末尾に記載)。

 これらの本を読んで初めて知ったのですが、ドリアンにはかなりの数の品種があるようです。そんな予備知識もなかったため、私がシンガポールで食べたドリアンの品種や原産地は不明です。売り場を撮った写真を見ると、品種の記号(XO, D24など)などが表示されているのですが、私が買ったドリアンが置かれていたところを写さなかったのが悔まれます。もしかすると、品種改良で作られた臭いが弱いとされるモントーン(Mon Thong)種かもしれません。また、サイズが小さいという点に注目すると、クラドゥムトーン(Kradum Thong)種という可能性もあるのかなと思ったりしています。


 上の2冊の本にも書かれていますが、ドリアンを不味い(あるいは臭い)と言う人たちは、「ハズレ」のものを食べてしまったケースが多いようです。日本の果物でも、桃や梨など、当たり外れの大きいものが結構あります。ウニやカキなどの水産物も好き嫌いの分かれる食品ですが、これらが嫌いという方は、最初に食べたものがあまり美味しくないもの(ハズレ)であった可能性が高いように思われます。ドリアンに対する評価も、「美味しい」ものに出会うかどうかにかかっているようです。良いドリアンを見つけ出すための奥深いノウハウがあるようですが、詳しくはこれらの本をご覧になってください。

 ドリアンの可食部成分を見ると、植物(果実)としてはタンパク質や脂肪がかなり多く含まれているのが大きな特徴となっています。これが独特の食感や風味に関わっているのは間違いないでしょう。ところで、パパイヤやパイナップルといった南国の果物にはプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)が多く含まれているものがありますが、ドリアンはどうなのでしょうか。もし、プロテアーゼ活性が高いのであれば、ドリアンは高タンパク質なので、熟す過程でペプチドも増えていそうです。私は食品タンパク質由来のペプチドに関心をもっているので、ドリアンのプロテアーゼやペプチドについても調べてみたいと思っています(ペプチドについては、No.1「注目される食品成分ペプチド」No.5「ペプチドはおいしい!?」をご参照ください)。


 インターネットでドリアンを検索すると、かなりの数のサイトがヒットします。しかし、詳しさや正確さといった点で、本文中で引用した2冊の書籍を凌ぐような情報源は見当たりません。ドリアンについて詳しいことをお知りになりたいのであれば、これらの書籍を入手されることをお勧めします。どちらか1冊ということであれば、読みやすさ、価格、入手のしやすさ、カラー写真の多さといった点から、「ドリアン 果物の王」が良いと思います。著者の塚谷裕一氏がこの本について語っているサイトもご参照ください。

1) 塚谷裕一 「ドリアン 果物の王」 中公新書 2006.10 ¥980
2) 渡辺弘之 「果物の王様 ドリアンの植物誌」 長崎出版 2006.12 ¥1900



〜追記〜

2008/12/10


 研究室の学生諸君にもドリアンを楽しんでもらおうと思い、インターネットで国内の取り扱い業者を探して注文しました(タイからの輸入品、1個2,700円、写真下)。マイルドな風味だと言われるモントーン(Mon Thong)種でしたが、配達した宅配業者の方は、ちょっと迷惑そうな顔をしていました(おそらく臭いのため)。同梱のリーフレットにあった食べ頃の記載を見て、しばらく待ってみることにしました。しかし、ビニール袋に何重に包んでも臭いがもれ(かなり容易にビニールを通過します)、敏感な学生さんには我慢できなかったようでした。そのため、やや未熟なのが惜しまれましたが、食べてしまうことにしました。外皮を裂いたところ、学生諸君は臭気に騒然としましたが、味自体はそれほど悪くないと感じている様子でした。


 「ドリアンは臭くない!?」というタイトルにしてしまいましたが、周囲への配慮を考えると、屋外で食べるのが無難な果物かと思います。なお、私がシンガポールで食べたものを、「モントーン種かもしれない」と書きましたが、外見や風味から判断するかぎり、まったく違う品種のようです。
この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。
162:インドネシアの食品市場(2014/04/10)
71:昆虫を食べる(2010/06/25)
67:世界の市場(2010/04/26)
37:生ハムの国・スペイン(2009/01/26)
食品のトピックス | 10:47 | 2008.11.25 Tuesday |