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北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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走れメロンパン

No.34


 来年(2009年)は、当地青森県出身の文豪・太宰治の生誕から100年目にあたります。『走れメロンパン』(写真下、1個180円)は、そんな事情も背景として誕生した商品です。このユニークな商品名を考案したのは、青森県むつ市の印刷会社で専務をされている杉山克也さんです。自他共に認める太宰ファンの杉山さんには、『太宰治コレクション』という自費出版された著書もあります。


 『走れメロンパン』のパッケージには、「撰ばれてあることの恍惚(バター)と不安(アン)と二つわれにあり」という太宰ファンならでは(?)のコピーがあります。 ただ、私はファンではありませんので、これが太宰の短編集『晩年』に引用されている仏詩人ヴェルレエヌの詩をもとにしているということは、わかりませんでした。 このコピーは、「バター」と「アン」の入った新しいタイプのメロンパンの特徴も表しているようです。 コピーはともかくとして、私もこのメロンパンを食べてみましたが、かなりおいしいと思いました。 よく売られているタイプのメロンパンよりもしっとりとやわらかく、「メロンパンはちょっと苦手」という方にも好まれそうです。
むつ市の『吉田ベーカリー』(TEL:0175-23-0148)で販売されていますが、売れ行き好調というのも納得です。

 杉山さんのアイデアによるもうひとつの新商品が、『生れて墨ませんべい』(写真下、24枚入り893円)です。こちらも太宰ファンでなければ思い付かなかった名前でしょう。製造しているのは、むつ市の『八戸屋』(TEL:0175-22-3324)で、既存の製品であった『イカ墨せんべい』のパッケージだけを変えたものだそうです。申し訳なさそうな表情の太宰治には誰しも惹かれるのではないでしょうか。この製品は日持ちもするので、メロンパンよりも販路を拡大することができるかもしれません。


 もし、『走れメロンパン』が『あんバター・メロンパン』という名前だったら、新聞で紹介されることもなかったでしょうし、私が食べる機会もなかったと思います。食品のネーミングやコピーが大切なものだということは、私も漠然とは認識していましたし、多くの企業ではこれらを貴重な知的財産として商標登録しているということも耳にしていました。しかし、昨年、フード・ペプタイド社の社名を商標登録するまでは、研究や教育に直接関係することもなかったので、ほとんど関心をもつこともありませんでした。なお、商標権については、No.15「チザイのヒト」に少し記述がありますので、ご参照ください。

 とくに機能性食品のように、実際は効果・効能があっても、法律的な制約からその表示ができない場合、ネーミングやコピーの与えるイメージが非常に重要となります。もちろん機能の実態がないのに、ネーミングやコピーだけの工夫により消費者のハートをキャッチするのは考え物ですが、製品の特徴や良さを良識ある範囲で伝える努力は、大切だと思っています。食品のネーミングや商標については、もう少し勉強してから、あらためてこの欄でも取り上げてみたいと思っています。


 杉山さんは、現在、次のアイデアを生かした商品の開発を目指しているとのことですので、私も楽しみにしています。最近明るい話題に乏しい青森県ですが、杉山さんのような試みは、青森県の地域振興にも大いに貢献することでしょう。

この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。
291:太宰治生誕110年記念パン(2019/09/10)
87:十和田名物「スタミナ源たれ」とコラボ食品(2011/02/25)
83:「わんぶ煎餅」と「にゃんぶ煎餅」(2010/12/27)
80:奥入瀬ガーリックポークと銘柄豚(2010/11/10)
44:卵かけご飯ブーム(2009/05/11)
35:バラ焼きの街・十和田(2008/12/26)
29:ガラナと北海道(2008/09/26)
食品のトピックス | 11:10 | 2008.12.10 Wednesday |