トピックス〜フード・ペプタイド 2020-10-31T08:44:26+09:00 トピックス〜株式会社フード・ペプタイドからいろんな情報をお届けいたします。 JUGEM トゲクリガニの季節 http://topics.foodpeptide.com/?eid=1283554 2020-04-10T13:05:00+09:00 2020-04-10T04:48:58Z 2020-04-10T04:05:00Z No.302
新型コロナウイルスの感染が拡大する中、東京など7都府県を対象に「緊急事態宣言」が出されました(2020/4/7)。私が住む青森県十和田市でも、昨日(2020/4/9)、最初の感染者が報じられました。青森県では例年、4月中旬から大型連休にかけて桜の季節になります... 有原圭三 北里大学獣医学部 教授 食品のトピックス No.302
新型コロナウイルスの感染が拡大する中、東京など7都府県を対象に「緊急事態宣言」が出されました(2020/4/7)。私が住む青森県十和田市でも、昨日(2020/4/9)、最初の感染者が報じられました。青森県では例年、4月中旬から大型連休にかけて桜の季節になりますが、今年は落ち着いて桜の花を楽しむ状況ではないようです。
日本三大桜名所の一つに数えられる弘前公園(青森県弘前市、下写真)で行われる「弘前さくらまつり」も、今年は中止となりました。過去に中止となったのは、第二次世界大戦のときだけだそうです。今回の新型コロナの感染拡大は、それに匹敵する事態ということなのでしょう。
ところで青森県は、大きく日本海側の「津軽地方」(青森市、弘前市など)と太平洋側の「南部地方」(八戸市、十和田市など)に分けることができます。これらの二つの地域は同じ県ではありますが、歴史的にかなり異なる道のりを歩んできました。
これらの地域は気候もかなり異なります。積雪量が多く冬の厳しい津軽地方では、春の訪れを祝うかのように、盛大に花見を楽しみます(下写真は弘前公園)。
津軽地方の花見で欠かせない食材として、「トゲクリガニ」があります。小型の毛ガニのような外観で、味も毛ガニと似ています。毛ガニよりも美味と言ってもいいかもしれません。青森県が誇る文豪・太宰治も、トゲクリガニが大好物だったそうです。
トゲクリガニは、十和田市など南部地方ではそれほど一般的な食材ではなく、花見に欠かせないということもありません。ただ、最近ではスーパーの店頭でもよく見かけるようになりました。上の写真は、一昨日(2020/4/8)、十和田市内のスーパーで購入したトゲクリガニです。まだ生きているものを手に入れ、自宅で茹でた後に撮りました。もちろん、たいへん美味しくいただきました。青森県外ではほとんど流通していないと言われていたトゲクリガニですが、今ではネット通販(楽天など)での購入ができるようです。
今年は、「弘前さくらまつり」だけでなく、「十和田市春まつり」など、青森県内の主だった行事の中止が伝えられています。8月に開催される青森県最大のイベントである「青森ねぶた祭」(8/2〜7、下写真)も、早々と中止が決定しました。これらのイベントの開催中止は、青森県にとって精神的にも経済的にも大きなダメージとなります。来年は新型コロナが沈静化し、これらのイベントが無事開催されることを祈っています。
この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。 219:青い森の機能性食品素材ハンドブック(2016/08/25) 131:青森県産の乳・肉・卵(2012/12/27) ]]> 羊名人(ようメ〜じん) http://topics.foodpeptide.com/?eid=1283553 2020-03-10T11:10:00+09:00 2020-03-10T02:13:47Z 2020-03-10T02:10:00Z No.301
現在、日本は「第3次羊肉ブーム」だそうです。日本で消費される羊肉は、主にオーストラリアとニュージーランドから輸入されていますが、輸入量は順調に増えています。また、羊肉料理を提供するレストランも急増しています。十和田市のような地方都市のレストラ... 有原圭三 北里大学獣医学部 教授 食品のトピックス No.301
現在、日本は「第3次羊肉ブーム」だそうです。日本で消費される羊肉は、主にオーストラリアとニュージーランドから輸入されていますが、輸入量は順調に増えています。また、羊肉料理を提供するレストランも急増しています。十和田市のような地方都市のレストラン(下写真)でも、固定客を掴んでいるようです。
先日手にした『料理王国』3月号(2020/2/6)は、「これからの、羊肉の教科書」を特集としています。表紙にも書かれていますが、「なぜ、羊肉が第4の肉と囁かれているのか?」という疑問に、70頁近い特集が答えています。
この特集の中で紹介されていたのが、「羊名人(ようメ〜じん)」という羊肉用特製スパイスです。このような製品が登場するのですから、第3次羊肉ブームは本物かもしれません。パッケージ裏面には、「唐辛子の辛味にエスニックな香りのクミンを加え、羊肉の風味を引き立てる岩塩で仕上げました。」とあります。
見た目(下写真左)は、白ゴマの入った七味唐辛子といった感じですが、風味はもっとエスニックな感じのものです。原材料の表示(写真右)を見ても、七味唐辛子とはだいぶ異なります。
この羊名人という製品、昨年(2019年)からは店舗やネット通販でも入手できるようになりましたが、発売当初は「羊齧協会(ひつじかじり協会)」 が主催する「羊フェスタ」だけで販売していました。なお、羊齧協会は、羊肉を文化として広める消費者団体です。
昨年(2019/11/2〜3)、6回目を迎えた羊フェスタは知名度が高まり、当初数百人程度だった来場者が数万人レベルまで増えたそうです。今年(2020年)も、11月7〜8日に東京・中野セントラルパークで開催されます。この日本で唯一の羊肉に特化したフードイベントでは、各国の多彩な羊料理を楽しむことができます。羊に関する講演会などもあり、羊肉文化に多角的に接することができます。
この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。 263:羊肉の魅力(2018/06/25) 182:メリーさんの羊乳(2015/02/10) 151:モンゴルの「赤い食べ物」(2013/10/25) 107:羊の本(2011/12/26) ]]> 乳酸菌ヘルベヨーグルト http://topics.foodpeptide.com/?eid=1283552 2020-02-12T16:31:39+09:00 2020-02-12T07:31:39Z 2020-02-12T07:31:39Z No.300
雪印メグミルクの「乳酸菌ヘルベヨーグルト」は、ヨーグルトで初めての「目や鼻の不快感を緩和する」機能性表示食品です(2020/1/21発売)。
「乳酸菌ヘルベ」は、ハウスダストやダニによる目や鼻の不快感を緩和する機能がヒト試験で確認されており、こ... 有原圭三 北里大学獣医学部 教授 食品のトピックス No.300
雪印メグミルクの「乳酸菌ヘルベヨーグルト」 は、ヨーグルトで初めての「目や鼻の不快感を緩和する」機能性表示食品です(2020/1/21発売)。
「乳酸菌ヘルベ」は、ハウスダストやダニによる目や鼻の不快感を緩和する機能がヒト試験で確認されており、この乳酸菌を使用したヨーグルトを12週間摂取した結果、目や鼻の不快感が改善され、くしゃみの回数も減少したことから、「目や鼻の不快感を緩和する」機能性表示食品として、消費者庁に届出をしたとのことです。
花粉症などのアレルギー性疾患と乳酸菌摂取の関係は、これまでに多くの研究が行われてきました。生体内で免疫機能を制御する細胞として、ヘルパーT細胞があります。Th1とTh2という2種類のヘルパーT細胞のバランスが崩れてTh2過多の状態になると、IgE抗体が過剰に産生され、花粉症が発症しやすいと言われています。しかし、ある種の乳酸菌を摂取すると、Th1細胞とTh2細胞のバランスが制御され、IgE抗体の産生が抑制され、これによりアレルギー発症が抑えられます。
「乳酸菌ヘルベ」も、「腸管免疫系を介して、Th2サイトカインや抗体の産生を抑制することで、目や鼻の不快感を軽減する可能性が示された。」(雪印メグミルク社プレスリリース, 2019/12/3) とのことですので、同様のメカニズムによる作用と思われます。
「乳酸菌ヘルベ」というちょっと耳慣れない名前について、少し触れておきます。この乳酸菌の正式名称は、「Lactobacillus helveticus SBT2171」というもので、雪印メグミルク独自の菌株です。同社では、「ガセリ菌SP株」と「ビフィズス菌SP株」に続く第3の乳酸菌を用いて、大型商品としての展開を期待しているようです。Lactobacillus helveticusという乳酸菌は、世界各地で古くからチーズや発酵乳の製造に使われてきた菌種です。その中でSBT2171株は、顕著な機能性を示す菌株として選抜されたものなのでしょう。
この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。 284:血圧・血糖値・中性脂肪(2019/05/10) 240:機能性表示食品が続々登場(2017/07/10) 159:花粉の季節が到来(2014/02/25) 39:花粉症と乳酸菌(2009/02/25) ]]> 大手町牧場 http://topics.foodpeptide.com/?eid=1283551 2020-01-27T11:36:33+09:00 2020-01-27T02:36:33Z 2020-01-27T02:36:33Z No.299
「大手町牧場」は、その名前のとおり、東京・大手町にある牧場です。東京駅近くのビルの13階にある日本で初めてのビル内牧場です(2017/8オープン)。
大手町牧場を運営するのは、株式会社丹後大国です。この会社は、パソナグループと京都府内の農業関係... 有原圭三 北里大学獣医学部 教授 その他のトピックス No.299
「大手町牧場」 は、その名前のとおり、東京・大手町にある牧場です。東京駅近くのビルの13階にある日本で初めてのビル内牧場です(2017/8オープン)。
大手町牧場を運営するのは、株式会社丹後大国 です。この会社は、パソナグループと京都府内の農業関係者や食品加工会社等が出資して設立されました。大手町牧場の目的は、「地域産業の担い手となる酪農・観光牧場分野の人材を育成し、地方創生に貢献する」となっています。
都会の真ん中のビル(下写真)の上層階にある牧場なので、通常の牧場とは異なりますが、かなり頑張っていると思います。小型の動物だけでなく、牛が飼育されているのには驚きます。
ジャージー種の乳牛(下写真)が飼われているのは、小型な牛ということもあるのかもしれません。ジャージーなら、何とかビルのエレベーターにも乗れそうです。
飼いやすいためか、山羊がかなりたくさんいます。餌やりをすることもでき、人気があるようです。都会のお子さんなのか、山羊をずいぶん怖がりながら、餌をあげていました。
大手町牧場では豚(ミニブタ)も飼われていますが、私が訪れたとき(2019/12)は展示が中止されていました。豚コレラの感染予防対策とのことでした。
他にも、ポニー、アルパカ、烏骨鶏、フラミンゴなどが展示されています。ちょっと意外な動物として、フクロウがいます。
見学後は、併設されている「大手町牧場Café」(下写真)で「大手町牧場ソフトクリーム」などを楽しむこともできます。
大手町牧場の見学は、ネットからの事前予約が必要ですが、東京駅のすぐ近くですので、新幹線を利用する際などに訪れてみてはいかがでしょうか。都会の真ん中での牧場見学は、ちょっとした非日常体験となるでしょう。
この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。 272:3種の生乳ヨーグルト(2018/11/12) 257:お肉の情報館(2018/03/26) 172:ミルクランド・北海道(2014/09/09) 141:6次産業化とレストラン「NARABI」(2013/05/27) 76:ジャージー牛乳とジェラート(2010/09/10) 65:東京ミートレアと肉のミュージアム(2010/03/24) ]]> 罪なきからあげ http://topics.foodpeptide.com/?eid=1283550 2019-12-25T10:43:00+09:00 2019-12-26T04:39:25Z 2019-12-25T01:43:00Z No.298
今回紹介するのは、「罪なきからあげ」です。ポテトチップスで有名な湖池屋の製品で、2019年9月に東東京・千葉エリアで販売を開始し、順次販売エリアを拡大しているとのことです。
「からあげ」が製品名になっていますが、スナック菓子です。下の写真か... 有原圭三 北里大学獣医学部 教授 食品のトピックス No.298
今回紹介するのは、「罪なきからあげ」です。ポテトチップスで有名な湖池屋の製品で、2019年9月に東東京・千葉エリアで販売を開始し、順次販売エリアを拡大しているとのことです。
「からあげ」が製品名になっていますが、スナック菓子です。下の写真からわかるように、外観は確かにからあげです。ただ、大きさは直径2〜3センチ程度と小ぶりです。実際に食べてみると、あつあつの本物のからあげにはかないませんが、からあげの食感と風味があります。
パッケージ上部に「大豆たんぱく質でつくった」と書かれているように、植物性の「代替肉」を原料とした製品です。パッケージの原材料名を見ると、鶏肉や豚肉を含む肉エキスパウダーを使用しており、結構肉っぽい風味を有する製品となっています。じっくりと噛み続けていると、大豆の風味も感じられますが、スナック菓子としては上出来に思われます。
製品名にある「罪なき」というのは、低カロリーを意図しているようで、「うれしい124kcal」という表示がパッケージに見られます。
代替肉として大豆たんぱく質を利用した食品は、すでに日本でもかなり販売されています。前々回の「培養肉の実用化は近い?」 でも紹介したように、下の写真のような食品をスーパー等で目にする機会も増えています。今回、大豆たんぱく質を利用したスナック菓子を紹介しましたが、徐々に用途を拡大していくことでしょう。
米国の調査会社による予測(下グラフ)によると、今後、植物肉(植物たんぱく質)の利用が拡大し、肉全体に占める割合が2040年には25%程度に達するとのことです。もっと気になるのは、現時点ではまだ実用化されていない「培養肉」が植物肉を上回る勢いで普及すると予測されていることです。
植物肉や培養肉といった代替肉が、20年後に60%を占める状況は想像しにくいのですが、最近のこの分野の研究開発動向を見ると、まったくの夢物語とも思えなくなってきています。毎年、年末になると、未来予測を特集した雑誌が書店に並びます。先日手にした「日経トレンディ」誌(2020年1月号)も、「トレンド、経済、テクノロジー 大予測 2020-2021」を特集としていました(下写真)。
この特集における41のキーワードのひとつに、「代替肉」が取り上げられていました。すでに商業的な軌道に乗っている植物肉に加えて、培養肉も「ここ数年で一気に実用・量産化の道筋が整いつつある。」と書かれていました。
今回は、本年最後のトピックスです。どうぞ、よい新年をお迎えください。
この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。 297:培養肉が必要な理由(2019/12/10) 296:培養肉の実用化は近い?(2019/11/25) 271:鶏の唐揚げと青森県民(2018/10/25) 230:チーズのような豆腐(2017/02/10) 105:鶏の唐揚げの科学(2011/11/25) ]]> 培養肉が必要な理由 http://topics.foodpeptide.com/?eid=1283549 2019-12-10T15:24:00+09:00 2019-12-25T01:46:38Z 2019-12-10T06:24:00Z No.297
前回は、「培養肉の実用化は近い?」と題した解説をお伝えしました。最近、培養肉の話を、学生諸君や一般の方々にすることがあります。培養肉をまったく知らなかったという方も、大きな関心を持たれるようです。ただ、なぜ培養肉が必要なのかという疑問を持つ方... 有原圭三 北里大学獣医学部 教授 食品のトピックス No.297
前回は、「培養肉の実用化は近い?」 と題した解説をお伝えしました。最近、培養肉の話を、学生諸君や一般の方々にすることがあります。培養肉をまったく知らなかったという方も、大きな関心を持たれるようです。ただ、なぜ培養肉が必要なのかという疑問を持つ方も多いようです。
私の手許に、「培養肉のひみつ」という小冊子があります。これは、JST(国立研究開発法人 科学技術振興機構)の未来社会創造事業「3次元組織工学による次世代食肉生産技術の創出」の一環として発行されたものです。
この小冊子では、培養肉がマンガでわかりやすく解説されています。キャラクターとして、「培養肉マン」、「くにおくん」、「みとちゃん」が登場します。「培養肉のいいところ」として、以下の4点があげられています。
それぞれの項目について、小冊子中で簡単に説明がされています。「食料難でも安心!」というのは、「一体の動物からたくさんのお肉が作られるから食べ物不足でも大丈夫!」。「命をムダにしない!」は、「細胞をふやすだけだから、動物をむやみに殺さなくていい!」。「衛生的!」は、「動物の体にすむ病原体などがお肉につかないように作れる!」。「地球にやさしい!」は、「動物を育てるより必要な土地や水が少なく済んで温室ガスが少なくなる!」とあります。
各項目を、もう少しだけ説明しましょう。「食料難」という観点では、今後の世界人口の増加が大きな背景としてあります。2050年の世界人口は、96億人に達すると予想されています(現在:74億人)。これに伴って、食料生産を約6割増やす必要があります。1キロの牛肉を生産するためには、11キロの穀物飼料が必要です。さらに、1キロの穀物を得るために1,800リットルの水が必要となります。培養肉の普及を目指す非営利団体「The Good Food Institute」は、食肉の生産を培養肉に置き換えることにより、水の使用量を82〜98%も減らせると推計しています。
「命をムダにしない」というのは、アニマルウェルフェア(動物福祉)に関連することです。世界的にアニマルウェルフェア対する意識が高まっており、家畜生産においても十分に配慮する必要があります。食肉生産のために家畜を犠牲にするべきではない主張も、少なからず見られるようになっています。アニマルウェルフェアという観点からは、培養による食肉生産の意義は大きいと言えるでしょう。
「衛生的」という点では、確かに培養肉は優れた面があります。家畜では、口蹄疫や牛海綿状脳症(BSE)といった疾病がしばしばニュースとして報じられてきました。このような疾病は、家畜の生産性や安全性に大きな影響を及ぼします。培養肉だから衛生的とは言い切れませんが、家畜に比べると病原菌を制御しやいと考えられています。
「地球にやさしい」というのは、もちろん地球環境に対する影響のことです。FAO(国際連合食糧農業機関)は、世界の温室効果ガス排出の約15%は家畜からと指摘しています。また、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)も、温暖化防止のために肉食を大幅に減らすことを提言しています。南米やオーストラリアでは、牛のための牧草地開発による森林破壊も深刻化しています。ただ、培養肉の生産では、温室効果の大きいメタンの発生は少ないものの、二酸化炭素の排出量がどの程度になるかは現時点では未知数です。
私は培養肉が食卓に登場するのを、心待ちするものでも拒否するものでもありません。もちろん、長い間、食肉領域の研究教育を行ってきたこともあり、家畜から得られる食肉が完全になくなってしまうようなことがあれば、寂しさを禁じえません。しかし、そのような事態にはならないだろうと思っています。カニカマ(蟹蒲)は日本で開発され、海外にも広まった優れた食品です。しかし、カニカマの登場・普及によって、私たちが本物の蟹を食べなくなったわけではありません。
最近、日清食品と弘前大学のグループによる「培養肉に関する大規模意識調査」の結果が発表されました(日本社会心理学会, 2019/11)。20歳から59歳までの一般男女2,000名を対象としたこの調査によると、「培養肉は世界の食糧危機を解決する可能性がある」という意見には55%の回答者が賛成を示しています。しかし一方で、「培養肉を試しに食べてみたい」と考える回答者は27%にとどまっています。このような意識は、今後大きく変わっていくのかもしれません。培養肉の実用化と普及には、技術的な問題の解決だけでなく、消費者の意識が大きく影響しそうです。
この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。 298:罪なきからあげ(2019/12/25) 296:培養肉の実用化は近い?(2019/11/25) ]]> 培養肉の実用化は近い? http://topics.foodpeptide.com/?eid=1283548 2019-11-25T15:46:00+09:00 2019-12-25T01:47:02Z 2019-11-25T06:46:00Z No.296
「培養肉」がマスコミに大きく取り上げられたのは、2013年の「世界初の培養肉の試食会」が最初ではないでしょうか。オランダ・マーストリヒト大学のマーク・ポスト教授(下写真, 2019/11に東京で撮影)が作ったハンバーガーのパティは、1枚3,500万円という代物... 有原圭三 北里大学獣医学部 教授 食品のトピックス No.296
「培養肉」がマスコミに大きく取り上げられたのは、2013年の「世界初の培養肉の試食会」が最初ではないでしょうか。オランダ・マーストリヒト大学のマーク・ポスト教授(下写真, 2019/11に東京で撮影)が作ったハンバーガーのパティは、1枚3,500万円という代物でした。
有力な代替肉として、植物肉と細胞培養肉がありますが、当時は植物肉の方がはるかに現実的なものでした。2009年に米国でビヨンド・ミート社が創業し、エンドウ豆を主原料としたプラント・ベースド・ミート(PBM)をハンバーガー用パティなどに供給を開始していました。
その後、ビヨンド・ミート社は順調に成長し、今年(2019/5)、米ナスダック市場に上場し、一時は1兆円を超える時価総額を付けました。マクドナルド社は、カナダでビヨンド・ミートの植物肉パティを使用したバーガーの発売を発表しました(2019/9/26)。バーガー・キング社は、ビヨンド・ミートのライバル社であるインポッシブル・フーズ社と提携して、植物肉バーガーを全米展開しています。
植物肉では、日本でも不二製油が「大豆ミート」を半世紀にわたって手掛けてきました。2017年には、日清食品がカップヌードルの「謎肉」に大豆を使用していることを発表し、大豆ミートが注目されるきっかけとなりました。マルコメは、2015年に「ダイズラボ 大豆のお肉」シリーズを発売し、ラインナップを拡大しています。これを利用した加工品も登場しています。実際に食べてみると、かなりの水準に達していると感じられます。
さて、今回の主題の「培養肉」です。植物肉は、すでに代替肉として実用化されていますが、培養肉はまだその段階には至っていません。しかし、それほど遠くない将来、食卓にあがるときが来るのではと、私は思うようになっています。冒頭で紹介した培養肉の第一人者であるマーク・ポスト教授の講演を、私は今年8月(2019/8)にドイツ・ポツダムの学会で聞く機会がありました。その2か月後(2019/10)にも、中国・南京で彼の話を聞きました(下写真)。
さらに、翌月(2019/11)には東京で開催されたシンポジウム「未来の食料生産に向けて 〜培養肉開発の最前線」で、ポスト教授の基調講演に接しました。彼の話が説得力を持っていたこともあり、培養肉が身近な存在に感じられるようになりました。
短期間に3回も会うと、さすがに親しくなります。ポスト教授は強面の巨漢ですが、なかなかの好人物です。直接接して話をして、培養肉の実現が確信に近いものになりました。
実は日本でも培養肉に対する関心はかなり高まってきており、国立研究開発法人「科学技術振興機構」(JST)も、培養肉を注視しています。2018年度「未来社会創造事業」では、「筋サテライト細胞とオルガノイド培養法の融合による革新的食肉培養法の開発」、「藻類と動物細胞を用いた革新的培養食肉生産システムの創出」、「3次元組織工学による次世代食肉生産技術の創出」、「組織工学技術を応用した世界一安全な食肉の自動生産技術の研究開発」の4課題を採択しました。
すでにJST事業の成果が出始めており、東京大学生産技術研究所の竹内昌治教授ら(日清食品との共同)は、牛筋肉細胞を培養し、サイコロステーキ状の筋組織の作成に世界で初めて成功しました(2019/6)。挽肉状の培養肉はできても、ステーキ状のものは難しいと考えられていただけに、画期的な成果と言えるでしょう。
その後も、米国で、ウサギと牛の筋細胞を成長させ天然肉そっくりの食感を作り出すことに成功というニュースがありました(2019/10)。これは、ゼラチン繊維にウサギと牛の筋細胞を植え込み培養したとのことです。また、つい数日前には、中国の南京農業大学の周光宏教授が、筋肉幹細胞を用いて培養肉の作成に成功しました(2019/11)。先月(2019/10)、南京で周先生にお会いしたときに上機嫌だったのは、研究がうまく進んでいたことも関係していたのかもしれません(下写真右)。
なお、詳細は不明ですが、最近、ロシアの宇宙飛行士が、国際宇宙ステーションで人工肉の培養に成功したという話もありました(2019/10)。また、食肉業界最大手の日本ハムが、細胞培養技術を使った食肉の開発を進めているインテグリカルチャー社と動物細胞の大量培養による食品生産に向けた基盤技術開発を始めるという発表(2019/7)も、気になるニュースです。
テレビや新聞といったマスコミも、今年(2019年)に入り、かなり頻繁に培養肉を取り上げるようになりました。経済誌や経済紙までが培養肉に注目するようになったことは、実用化が視野に入っているということなのかもしれません。エコノミスト誌(下写真左:2019/11/26号)は、「食肉大争奪」という特集の中で、人工肉を見開き2頁で扱っています。また、日経ヴェリタス紙(写真右:2019/11/10号)の「フードテックの妙味」という5面にわたる特集の大部分が、培養肉など代替肉に関するものです。
米国では、研究開発が進んでいる培養肉が商品化されることを見越して、食品医薬品局と農務省が規制の枠組みを設けることで合意したとのことです(2018/12)。このような話も、培養肉が食卓に登場する日が近づいていることを感じさせます。米国の調査会社による予測では、2040年には植物肉と培養肉をあわせたシェアは60%になると見ています。従来の牛・豚・鶏といった食肉が40%に減じるということです。次に培養肉を扱うときは、「培養肉が食卓へ!」といったタイトルになるかもしれません。
この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。 298:罪なきからあげ(2019/12/25) 297:培養肉が必要な理由(2019/12/10) 288:世界のWAGYU(2019/07/10) 274:和牛とWAGYU(2018/12/10) 263:羊肉の魅力(2018/06/25) 206:TPPと牛肉・豚肉(2016/02/10) 196:霜降りか赤身か(2015/09/10) 189:熟成肉は美味しくて体に良い(2015/05/25) 98:馬肉の魅力(2011/08/10) ]]> 頑張る魚肉ソーセージ http://topics.foodpeptide.com/?eid=1283547 2019-11-11T14:35:10+09:00 2019-11-11T05:35:10Z 2019-11-11T05:35:10Z No.295
魚肉ソーセージ(フィッシュソーセージ)は、魚肉のすり身をケーシングに入れて加熱した加工食品です。産業的に魚肉ソーセージが作られたのは、日本が最初と言われています。大正時代に各地の水産試験場で魚肉を原料とするハム・ソーセージが試作され、1935年(... 有原圭三 北里大学獣医学部 教授 食品のトピックス No.295
魚肉ソーセージ(フィッシュソーセージ)は、魚肉のすり身をケーシングに入れて加熱した加工食品です。産業的に魚肉ソーセージが作られたのは、日本が最初と言われています。大正時代に各地の水産試験場で魚肉を原料とするハム・ソーセージが試作され、1935年(昭和10年)にマグロを原料とするハムが販売されました。今日の魚肉ソーセージの原型は、1951年(昭和26年)に「スモークミート」の名で商品化されたものです。
その後の消費量増加に伴い、1962年(昭和37年)には魚肉ソーセージに関する日本農林規格(JAS規格)が制定されました。この規格では、魚肉の原材料に占める割合が50%以上のものを魚肉ソーセージとしています。魚肉以外の原材料として、豚脂肪や結着材料などが使用されています。
1972年(昭和47年)には、魚肉ソーセージの生産量 は19万t近くに達し、ピークを迎えました。当時、一世帯当たり年間50本近くの魚肉ソーセージを食していたことになります。しかしその後は、魚肉ソーセージに使用されていた保存料への不安などもあり、生産量が減少しました。
一方で近年、カルシウムやDHAといった機能性成分を添加した製品の開発が盛んになり、ヘルシー志向の強まりも手伝って魚肉ソーセージが見直されるようにもなっています。とくに2005年に発売された「DHA入りリサーラソーセージ」は、魚肉ソーセージで最初の特定保健用食品(トクホ)となり、市場にもしっかりと定着しています。
最近登場した魚肉ソーセージで私が注目しているのは、マルハニチロ社の「産地厳選フィッシュソーセージシリーズ」です。写真は、上から「北海道産さんまを使ったお魚ソーセージ」、「三陸さんさばを〜」、「銚子さんいわしを〜」、「広島産かきを〜」、「鰤王 九州産ぶりを〜」です。これらの他にも、「焼津産かつおを〜」、「三陸産銀鮭を〜」、「極味 山陰でとれたのどぐろを〜」があります。
このシリーズで感心するのは、単に原料を変えているだけでなく、ソーセージの太さや長さがそれぞれで微妙に異なっている点です。意図しているところは、正確にはわかりませんが、それぞれの製品の特長を生かすための工夫かと思います。お味の方も、従来の魚肉ソーセージとは一線を画すものと言えるでしょう。
畜肉が高価で魚肉が安価だった時代を知る方は、魚肉ソーセージに代用品のイメージを持っているかもしれません。ただ、安価で栄養価の高い魚肉ソーセージは、早くから学校給食に利用されるなど、社会的に大きな貢献も果たしてきました。「DHA入りリサーラソーセージ」などの登場以降は、新たな存在価値を持つ食品として見直されてきました。フィッシュソーセージと呼ばれるようになった魚肉ソーセージは、すでに生まれ変わったのかもしれません。
この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。 234:関西限定?「ポールウインナー」(2017/04/10) ]]> APCoMST in 中国・南京 http://topics.foodpeptide.com/?eid=1283546 2019-10-25T13:21:46+09:00 2019-10-25T04:21:46Z 2019-10-25T04:21:46Z No.294
中国・南京で開催された「Asia-Pacific Congress of Meat Science and Technology (APCoMST)」という国際会議に出席してきました(2019/10/11〜13)。日本語に訳すと、「アジア太平洋地域食肉科学技術会議」といった感じでしょうか。
APCoMSTの世界版会... 有原圭三 北里大学獣医学部 教授 その他のトピックス No.294
中国・南京で開催された「Asia-Pacific Congress of Meat Science and Technology (APCoMST)」という国際会議に出席してきました(2019/10/11〜13)。日本語に訳すと、「アジア太平洋地域食肉科学技術会議」といった感じでしょうか。
APCoMSTの世界版会議として、「International Congress of Meat Science and Technology(ICoMST)」というものがあります。毎年1回開催されるICoMSTは、今年は8月にドイツ・ポツダムで開催されました。APCoMSTは、限定された地域を対象とした会議ですが、500名を超える参加者が集う大きな会議でした(下写真)。
今回の会議が開催された南京について、少し紹介しておきます。南京は、上海から約300キロメートルであり、高速鉄道(中国版新幹線)を利用すれば、1時間半ほどで到着します。成田から南京への直行便も就航しています。
「東洋のベニス」と言えば、中国・蘇州が有名ですが、南京を「中国のベニス」と呼ぶこともあるそうです。確かに、運河の多い南京の街は、ベニスの眺めを思い出させるところがあります(下写真)。
南京は、都市地域の人口が約680万人(総人口約830万人)の大都市です。上海(約2,400万人)や北京(約1,900万人)には及びませんが、中国四大古都の一つであり、14世紀から15世紀にかけては世界最大の都市でした。なかなか魅力的な場所も多く、上海や北京よりも落ち着いた趣のある街です(下写真)。
さて、APCoMSTに話を戻します。この会議は、中国畜産品加工研究会と南京農業大学が主催者となり、南京国際会議大酒店(International Conference Hotel)で開催されました。なかなか立派な施設(ホテル)でしたが、国際会議大酒店と名乗っていながら、英語を理解できる従業員が少なかったのは残念な点でした。
今回、日本からの参加者は、私と日本食肉研究会の坂田亮一会長(麻布大学名誉教授)の二人でした(下写真)。2022年に日本(神戸)で開催が予定されている上述のICoMSTのPRも、重要なミッションのひとつでした。
参加者の多くは開催国中国の研究者や技術者でしたが、国際的に著名な研究者による招待講演を主体とする会議は、なかなか充実したプログラムが提供されていました。オランダのMark Post教授(下写真左)やスペインのFidel Toldra教授(右)は、国際学会ではお馴染みの著名研究者です。
私も彼らとともに講演の機会を持てたのは、たいへん光栄なことでした(下写真左)。私の話は、メイラード反応を利用した機能性食品素材に関するもので、とくに「香りの機能性食品」というコンセプトに対して、参加者の皆さんには関心を持っていただけたようです。また、日本食肉研究会の坂田亮一会長は、座長として重責を果たされました(下写真右)。
国際学会に付きものの行事として、Congress Dinner(晩餐会)があります。日本や中国の場合、懇親会という言葉の方がよいかもしれません。強いお酒で、やたらに乾杯を繰り返すのが中国流です(下写真)。欧米からの参加者は、このスタイルに少々戸惑うようです。
中国スタイルの晩餐会には少々閉口しますが、今回の会議でも研究者間の交流を深める貴重な機会となりました(下写真)。彼らには、日本で開催が予定されている会議(2022ICoMST)にもぜひ参加していただきたいと思っています。
今回の帰路、台風19号の関東直撃により、南京からの帰国便(成田行き)が欠航になるというアクシデントがありました。このため、南京から上海まで鉄道で移動し、上海から愛媛・松山を経由し、羽田にたどり着くことができました。中国版新幹線を利用することができたのは、貴重な経験になりました(下写真)。
この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。 283:ペットエキスポ in 中国(2019/04/25) 267:オーストラリアの畜産事情(2018/08/27) 205:ロシアの食肉事情(2016/01/25) 173:インドの食肉事情(2014/09/25) 151:モンゴルの「赤い食べ物」(2013/10/25) ]]> バナナの危機 http://topics.foodpeptide.com/?eid=1283545 2019-10-10T12:00:00+09:00 2019-10-10T12:36:35Z 2019-10-10T03:00:00Z No.293
「バナナダイエットブームで品薄」という記事を書いてから、早いもので11年が経ちました。当時、「朝バナナダイエット」の爆発的なブームにより、バナナが入手難になったことが思い出されます。日本で一番消費量の多い果物の品薄は、大きな社会問題になりました... 有原圭三 北里大学獣医学部 教授 食品のトピックス No.293
「バナナダイエットブームで品薄」 という記事を書いてから、早いもので11年が経ちました。当時、「朝バナナダイエット」の爆発的なブームにより、バナナが入手難になったことが思い出されます。日本で一番消費量の多い果物の品薄は、大きな社会問題になりました。十分に熟していない青いバナナも、スーパーに並びました。
最近、「バナナが絶滅するかもしれない」というニュースを目にします。アジアやアフリカのバナナ農園に大打撃を与えてきた真菌が、とうとう世界のバナナ輸出市場の中心地であるラテンアメリカに上陸してしまいました。今年8月(2019/8)、「トロピカルレース4」(TR4)と呼ばれる真菌が検出されたため、コロンビア政府は国家非常事態宣言を発令しました。この真菌に感染したバナナを人間が食べても危険はありませんが、やがてバナナの木は実をつけなくなります。なお、コロンビアの国旗の黄色は、バナナではなく黄金を意味しているそうです。
現在、全世界で流通しているバナナの99パーセントは、「キャヴェンディッシュ」という品種です。単一品種の栽培は、作物を効率的に育てることができ、安価なバナナの流通を実現しました。しかし、病害の蔓延には滅法弱いという一面があります。残念ながら、現状ではTR4によるバナナ全滅の危機を救う手立てはないという悲観的な状況のようです。
バナナの魅力のひとつに、リンゴなどのようにナイフで皮を剥く必要がないことがあります。実際、欧米のアグリバイオ企業では、簡単につるっと皮が剥けるリンゴやナシの品種開発を進めていて、バナナに代わってこういった果物が台頭するのかもしれません。ただ、いくら皮が簡単に剥けても、バナナの味はしません。
今後、日本で開発されそうなものとして、「フェイクバナナ」があります。フェイク食品は、日本のお家芸とも言えるもので、カニカマ(蟹蒲)など、レベルの高い製品が世界的に普及しています。実際、バナナでも、でんぷんに香料や着色料などを加えることにより、すでに技術的にはかなりバナナに似た食品を作ることは可能になっているそうです。
今年の8月(2019/8)に、ドイツ・ポツダムで開催された国際学会に出席しました。ベルリンやポツダムのホテルに泊まったときに、感じたことがありました。それは、朝食のバッフェ会場に行くと、妙にたくさんのバナナが積んであることでした。東西冷戦の時代、東ドイツではバナナを手に入れることができず、バナナは東西統一の象徴的なものだそうです。ベルリンの壁(下写真)が崩壊し、旧東ドイツ地域でバナナが容易に手に入るようになってから、すでに30年近くが経っています。しかし、バナナは今でもこの地域では、特別な果物のようです。
この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。 290:スパイス博物館と塩博物館(2019/08/19) 30:バナナダイエットブームで品薄(2008/10/10) ]]> 飲むおにぎり http://topics.foodpeptide.com/?eid=1283544 2019-09-25T11:32:28+09:00 2019-09-25T02:32:28Z 2019-09-25T02:32:28Z No.292
今年3月(2019/3)に、「飲むおにぎり」という製品が登場しました。注目していた製品ですが、私の住む青森県十和田市では目にする機会がありませんでした。しかし、発売から半年を経て、自宅近くのスーパーにも配架されるようになりました。
ゼリー飲料... 有原圭三 北里大学獣医学部 教授 食品のトピックス No.292
今年3月(2019/3)に、「飲むおにぎり」という製品が登場しました。注目していた製品ですが、私の住む青森県十和田市では目にする機会がありませんでした。しかし、発売から半年を経て、自宅近くのスーパーにも配架されるようになりました。
ゼリー飲料によく使われているスパウト(飲み口)付パウチ容器を使った製品です(上写真)。この製品のプレスリリースには、開発背景として「おにぎりは日本の国民食で、単身世帯のおにぎり購入数は年間48個にのぼり、年々増加しております。」とあります。
中身をお皿に少し出して撮ったのが、上の写真です。左が「梅こんぶ」で、右が「梅かつお」です。あまり食欲をそそるものではありませんが、本来、中身を目にしながら食べる食品ではありません。実際に食べてみたところ、私は「梅かつお」は結構いい味だと思いましたが、ご飯がやや固いところが惜しまれました。
パッケージには、「朝忙しい時に 夜お夜食に」とありますが、本物のおにぎりにはかなわないというのが率直な感想です。ただ、プレスリリースには、「おにぎりが保存食・非常食として家庭内備蓄品の選択肢のひとつとなるよう開発しました。」とあり、これには頷けます。1年間の常温保存が可能なおにぎりというのは画期的です。
今回紹介した「飲むおにぎり」ですが、製品化の際にネーミングはどのようなものが検討されたのかが気になります。「おにぎり」という言葉を使えば、製品コンセプトは明確に伝わりますが、どうしても本物のおにぎりと競合してしまいます。1971年に誕生した超ヒット食品である「カップヌードル」は、「ラーメン」という言葉を使わなかったことも重要だったと言われています。カップヌードルは、まったく新しい食品として消費者に受け入れられました。
一方で、1975年に同じ日清食品から発売された「カップライス」は、大方の予想に反してヒット商品とはなりませんでした。当時、私はかなり出来がよい製品だと思いましたが、普通に炊いたご飯と比べてしまうと、食感などが劣っていたのは否めませんでした。本物と比較されないような製品コンセプトやネーミングが必要だったのかもしれません。
この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。 269:安藤百福発明記念館(2018/09/25) 72:ロングセラー食品の秘密(2010/07/12) 52:売れないのは誰のせい?(2009/09/11) ]]> 太宰治生誕110年記念パン http://topics.foodpeptide.com/?eid=1283543 2019-09-10T13:55:14+09:00 2019-09-10T04:55:14Z 2019-09-10T04:55:14Z No.291
10年前に、「走れメロンパン」(下写真)という製品(パン)を紹介したことがありました。青森県出身の文豪・太宰治の生誕100年を記念したものでした。詳しくは、こちらをご覧ください。
あれから10年経った今年、太宰治の生誕110年を迎えました。様々な... 有原圭三 北里大学獣医学部 教授 食品のトピックス No.291
10年前に、「走れメロンパン」(下写真)という製品(パン)を紹介したことがありました。青森県出身の文豪・太宰治の生誕100年を記念したものでした。詳しくは、こちら をご覧ください。
あれから10年経った今年、太宰治の生誕110年を迎えました。様々なイベントが開催されている中で、「太宰治生誕110年記念パン」も登場しました。半年ほど前に発売になったものが、今月(2019/9)になってリニューアルしました(下写真)。「人間失格カステラサンド」と「走れメロス黒糖カステラサンド」です。
9月13日に映画「人間失格〜太宰治と3人の女たち」 が封切られるのに合わせた発売のようです。10年前に書いた記事を読み返すと、「私はファンではありません」とありましたが、この映画は観てみようかと思っています。
10年前の「走れメロンパン」は、パロディ色の強いものでしたが、今回の「人間失格」と「走れメロス」はいたって真面目なものです。青森県や五所川原市などでつくる「太宰治生誕110年誘客促進実行委員会」の協力を受け、工藤パン(青森市)が製品化したということも関係しているのかもしれません。
10年後の生誕120年には、どんな製品が登場するのでしょうか。
この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。 287:金農パン(2019/06/25) 132:世界にパンを、「救缶鳥」プロジェクト(2013/01/10) 87:十和田名物「スタミナ源たれ」とコラボ食品(2011/02/25) 34:走れメロンパン(2008/12/10) ]]> スパイス博物館と塩博物館 http://topics.foodpeptide.com/?eid=1283542 2019-08-19T06:05:00+09:00 2019-08-18T21:17:02Z 2019-08-18T21:05:00Z No.290
先日(2019/8)、ベルリン、ポツダム、ハンブルグといったドイツ北部を訪れました。ドイツと言えば、ソーセージなどの食肉製品が有名です。食肉製品の製造に欠かせない原料として、塩やスパイスがあります。今回、ハンブルクにある「スパイス博物館」とハンブル... 有原圭三 北里大学獣医学部 教授 食品のトピックス No.290
先日(2019/8)、ベルリン、ポツダム、ハンブルグといったドイツ北部を訪れました。ドイツと言えば、ソーセージなどの食肉製品が有名です。食肉製品の製造に欠かせない原料として、塩やスパイスがあります。今回、ハンブルクにある「スパイス博物館」とハンブルクから近いリューネブルクにある「塩博物館」を紹介します。
ハンブルクの運河沿いに、赤レンガ造りの倉庫街があります。ここはハンブルク有数の名所となっており、観光客で賑わっています。2015年には世界遺産にも指定されました。この倉庫街の一角に、「スパイス博物館」があります。
ハンブルクは、古くから港町として栄えていました。かつて、スパイスは貿易の主役でした。このような背景を考えれば、スパイス博物館がハンブルクにあることもうなずけます。小さな博物館なため、入口も目立たないため、すぐには見つけられませんでした。
観光ガイドブックの類にも書いてありますが、入場チケットの代わりにブラック・ペッパーの入った小袋が渡されます(下写真)。
スパイス運搬用の麻袋やスパイス加工に用いられた機器など、往時を忍ばせる展示がされています。やや地味な題材を扱う博物館であるため、入館前は閑散としているのかと思っていましたが、意外に賑わっていました。熱心に展示を見る入館者も少なくありません。
リューネブルクは、特急列車を使えばハンブルクから30分ほどで到着します。ここは、レンガ造りの家並みがよく保たれた美しい街として知られています。かつてこの街は、製塩業で栄えました。良質の岩塩水から作られる塩は、「白い黄金」と呼ばれました。
リューネブルクでの製塩はすでに幕を閉じており、1980年まで操業していた最後の製塩所が「塩博物館」となっています。ここではリューネブルクの製塩に限らず、塩に関するかなり広範な展示がされています。
入館後すぐに目を引くのは、重さ6トンの巨大な岩塩は2億年以上前に結晶化されたものです(下写真左)。中世の製塩過程や近代的な製塩装置なども展示されています。
せっかく塩博物館を訪れたので、リューネブルクの塩(下写真)をお土産に買いました。ただの塩の結晶のようにも見えますが、これがかつて「白い黄金」と呼ばれたものです。お値段は、1グラム2円ほどでした。
塩やスパイスは、ハム・ソーセージの製造に欠かせないものです。腐敗しやすい食肉の貯蔵性を高める塩やスパイスは、古くから非常に重要な存在でした。冷蔵技術が発展した今日でも、これらなしに嗜好性の高い食肉製品を得ることはできません。もはや、良質な塩やスパイスの入手は困難なことではありませんが、今回訪れた博物館の展示を見ると、先人の努力に敬意を表したくなります。
この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。 269:安藤百福発明記念館(2018/09/25) 257:お肉の情報館(2018/03/26) 65:東京ミートレアと肉のミュージアム(2010/03/24) 19:たまご博物館(2008/04/25) ]]> ヨーグル糖とヨーグル豚 http://topics.foodpeptide.com/?eid=1283541 2019-07-25T11:57:00+09:00 2019-07-25T03:28:12Z 2019-07-25T02:57:00Z No.289
先日、スーパーで「ヨーグル糖」という製品を見つけました(下写真)。パッケージには、「北海道産のてん菜から生まれたオリゴ糖」とあります。「善玉菌であるビフィズス菌、乳酸菌はオリゴ糖が大好き!」とも書かれていますので、いわゆるプレバイオティクス(... 有原圭三 北里大学獣医学部 教授 食品のトピックス No.289
先日、スーパーで「ヨーグル糖」という製品を見つけました(下写真)。パッケージには、「北海道産のてん菜から生まれたオリゴ糖」とあります。「善玉菌であるビフィズス菌、乳酸菌はオリゴ糖が大好き!」とも書かれていますので、いわゆるプレバイオティクス(prebiotics)をコンセプトとする製品です。
今回は、この製品の中身ではなく、「ヨーグル糖」という製品名に注目してみます。製品名の右下に、小さく「R」の文字があります(下写真)。「Registered Trademark」(登録商標)の頭文字です。
商標については、ずいぶん前に「食品と商標」 で解説していますので、そちらもご覧ください。「ヨーグル糖」は、2017年1月に特許庁に出願され、2017年8月に登録されています。出願人は、株式会社加藤美蜂園本舗です。「サクラ印ハチミツ」の会社です。
「ヨーグル糖」というネーミングは、「ヨーグルト用のオリゴ糖」という製品コンセプトによく合致したよいものです。親しみやすく、覚えやすいようにも感じられます。ヨーグルトを連想させるネーミングは多く、スーパーなどでよく目にします。商標として特許庁に出願されたものは、「特許情報プラットフォーム」 を使えば、どなたでも簡単に検索できます。
簡易検索画面なら、操作は適当なキーワードを入力するだけです。「ヨーグル」をキーワードとして検索すると、511件がヒットしました。下に示したように、出願(登録)番号、商標、呼称、出願人といった一覧表が表示されます(下写真)。511件中の6件だけを示していますが、それでも字が小さいので読むのは難しいかと思います。ぜひ、一度実際に検索してみることをお勧めします。
「ヨーグル」で検索すると、「ヨーグルッペ」(南日本酪農協同)のように頭に「ヨーグル」が来るものもあれば、「ごきげんよーぐると」(味覚糖UHA)のように後ろに付くものも出てきます。
頭に「ヨーグル」があるものだけ見ると、株式会社明治を出願人とするものが最も多く、「ヨーグルジョイ」や「ヨーグル人」などがあります。以下出願件数順に、南日本酪農協同(「ヨーグルタイム」など)、雪印メグミルク(「ヨーグルメット」など)、森永乳業(「ヨーグルトサプリ」など)、コカ・コーラ(「ヨーグルジー」など)と続いています。ヨーグルトを主力製品とする乳業メーカーが上位に並ぶのは、当然のことでしょう。
ところで、特許庁に出願されたものすべてが、商標として認められて登録されるわけではありません。特許情報プラットフォームでは、出願された商標の審査記録も調べることができます(下写真)。
ここにあげた例では、出願から約半年後に「拒絶理由通知書」が届いています。この書類には、商標として認められない理由があげられていますが、「手続補正書」の提出により問題点が解消され、最終的に商標として登録されています。もちろん、商標として認められない場合もあります。
では、どのようなものが商標として認められないのでしょうか。もちろん過去に同一あるいは類似のものが登録されていれば基本的には認められませんが、似たような名称でも、「商品や役務が非類似」であれば、商標として認められます。この辺の事情は、「a-iペプチドとAIペプチド」 で解説しましたので、そちらをご覧ください。
しばしば拒絶理由になるのが、「記述的商標」というものです。記述的商標とは、「普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」のことです。以前、「サラ牛・ペプ牛・GABA牛」 で、「サラ牛」や「ペプ牛」は認められても、「GABA牛」は難しいという話を書いたことがありました。
「ヨーグル」を含む名称の場合でも、「ヨーグル糖」や「ヨーグルッペ」といった固有名詞的なものは、商標として認められやすいようです。ただ、「これがヨーグルトだなんて」(森永乳業)、「ヨーグルトの国の自信作」、「ヨーグルトだからできること」、「未来に差がつくうるおいヨーグルト」(いずれも明治)のようなかなり記述的なものも商標登録されている例があり、一概には言えないようです。
「ヨーグル」をキーワードとして商標を検索すると、「ヨーグル豚」のようなちょっと意外なものも見つかります。これは朝霧ヨーグル豚販売協同組合(静岡県)が出願人となっている商標で、ヨーグルト状に加工した特別な飼料を使って育てた豚から得た肉とのことです。他にも、「ヨーグルトとお米で育った信州高原豚」(しらかば農園)や「ヨーグル鶏」(十文字チキンカンパニー)なども、商標として登録されています。製品のネーミングで悩んでいる場合、特許情報プラットフォームを検索すると、ヒントが得られることもあるでしょう。
この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。 270:サラ牛・ペプ牛・GABA牛(2018/10/10) 233:「a-iペプチド」と「AIペプチド」(2017/03/27) 195:においの商標登録(2015/08/25) 188:特許情報プラットフォーム(2015/05/11) 110:食品と商標(2012/02/11) ]]> 世界のWAGYU http://topics.foodpeptide.com/?eid=1283540 2019-07-10T11:55:00+09:00 2019-11-25T06:50:48Z 2019-07-10T02:55:00Z No.288
「和牛」は、日本在来の牛に外国種を交配してできた肉専用種で、「黒毛和種」、「褐毛和種」、「日本短角種」、「無角和種」の4品種とその交雑種と、日本では定められています。現在、日本の和牛の主流は、商品価値の高さから黒毛和種(下写真)となっています... 有原圭三 北里大学獣医学部 教授 食品のトピックス No.288
「和牛」は、日本在来の牛に外国種を交配してできた肉専用種で、「黒毛和種」、「褐毛和種」、「日本短角種」、「無角和種」の4品種とその交雑種と、日本では定められています。現在、日本の和牛の主流は、商品価値の高さから黒毛和種(下写真)となっています。
以前、「和牛とWAGYU」 で紹介したように、日本政府は和牛を国際競争力のある貴重な農産物としています。そして、「和牛統一マーク」(下図)を作成した輸出促進活動が、幅広く行われています。
海外に行くと、スーパーやレストランといったところで、「WAGYU」という表示を目にする機会が増えました。しかし、その多くは日本の和牛ではありません。正確な調査結果はありませんが、海外でWAGYUとして流通している牛肉の約半分はオーストラリア産と推定されており、日本産が占める割合はわずかです(下表)。
Australian Wagyu Associationは、WAGYUを「和牛血統の交配割合が50%を超えるもの」としており、日本の和牛よりも緩く規定しています。日本の和牛関係者の多くは、豪州産WAGYUは本物の和牛ではないと主張していますが、海外の市場では圧倒的な強さです。
豪州産WAGYUは、日本産和牛にとって強敵ですが、WAGYU生産をしている国はすでにかなりあります。米国、中国、台湾、スペイン、ポルトガル、ブラジル、カナダ、ドイツ、メキシコ、ウルグアイ、南アフリカ、ニュージーランドといった国をあげることができます。生産団体が作られ、ロゴマークを定めている国も少なくありません(下写真)。
「WAGYU WORLD」という海外の雑誌も刊行されており、海外ではWAGYUの本来の意味(和牛)を知らずに食べている人たちも増えています。WAGYUを豪州産牛肉と思っている人までいるそうです。
将来、WAGYU消費が大きく伸びそうな国のひとつに中国があります。最近は、中国のスーパーでWAGYUを見かけることが多くなりました。下の写真は、北京のスーパー店頭のものです(左)。「但馬屋」や「黒毛和牛」という漢字表示があるため、日本産にも見えてしまいますが、実は豪州産です。まずまずの霜降りで(右)、風味も悪くありません。
中国では、「黄牛」とオーストラリアのWAGYUを交配させた「雪龍黒牛」(下写真)の生産が行われています。これには、日本の企業も技術や販売の面で協力しています。
ちょっと意外な国かもしれませんが、スペインやポルトガルでもWAGYUの人気が高まっています。下の写真は、スペインのデパート(El Corte Ingres)の食料品売り場に設けられた「CARNE WAGYU」のコーナー(左)です(carneは肉という意味)。スペイン産のWAGYU肉は霜降りがやや粗いものの、パッケージはなかなか立派です(右)。
知人のスペイン人研究者に尋ねたところ、スペインやポルトガルでは霜降りの入った豚肉(ハム)の人気が高いので、霜降り牛肉にもまったく抵抗がないとのことでした。確かに、イベリコハムの霜降りは和牛肉を連想されるものです(下写真)。
今回、海外のWAGYU事情の一端を紹介しました。日本の和牛は芸術的ですらありますが、海外のWAGYUにもかなりのレベルのものが見られるようになってきています。日本は和牛の本家ではありますが、海外市場で優位に立つのは容易なことではありません。JETRO(日本貿易振興機構)なども和牛の普及に努力していますが、今後はさらに高度な戦略が求められる市場に感じられます。
この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。 296:培養肉の実用化は近い?(2019/11/25) 274:和牛とWAGYU(2018/12/10) 196:霜降りか赤身か(2015/09/10) 74:口蹄疫と和牛肉(2010/08/10) ]]>